【コラム 山口利昭】不祥事・重大事故の公表ルールは柔軟に作るべきである
2015年1月10日 18:30
【1月10日、さくらフィナンシャルニュース=東京】
食品への異物混入事件の報道が連日続いています。ついにスーパーで販売する「ひき肉」から金属の刃まで見つかるような事態になってますね(読売新聞ニュースはこちら(http://www.yomiuri.co.jp/national/20150107-OYT1T50120.html?from=ytop_main6))。なかでもマクドナルド社(日本マクドナルドホールディングス社)の異物混入事件は連日のように伝えられ、本日、取締役の方が謝罪会見を開きました。各社の対応をみていますと、異物混入の原因が不明であるだけでは公表も回収もせず、第三者機関で混入経路が判明し、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)等で騒がれ始めた場合には公表するといった対応が目立ちます。マクドナルド社の場合は公表ルールに沿って判断している、といったコメントがありました。
不祥事や重大事故が発生した場合、当該事件を世間に公表すべきかどうか迷うところです。企業にとって本当に悩ましい問題ですね。行政当局に報告するケース、刑事手続きが進行しているケース、被害が拡大するおそれのあるケース等、公表の要否を検討するにあたっては、状況を把握し、「社外の目」をもって判断しなければなりません。食品事故の場合、消費者の生命、身体の安全にかかわるものなので、とくに「社外の常識」で判断することは大切だと思います。誠実な企業ほど、自社製品に対する安全への自負がありますから、これが有事には裏目に出てしまうケースが目立ちます。
以下は私の個人的な意見ですが、公表の要否を判断する基準が必要ですが、その基準は原則主義で策定すべきであり、あまり詳細なものはかえって問題を悪化させるのではないかと考えています。毎度申し上げることですが、会社が有事となった場合、どんな誠実な役職員でも会社を守ろうとするバイアスが働きます。かならず、なにか言い訳をして「これは公表するほどでもない」と考えます。「当社が公表することで、取引先にも迷惑をかけてしまう」といった言い訳も聞こえてきます。タカタのリコール問題に対してホンダ社が「調査リコール」に踏みきるべきかどうか逡巡していたところ、社長が社外取締役から「消費者の視線で対応せよ」と一喝されて決心がついた、という話が昨年12月12日の日経新聞に掲載されていました。社内の常識で判断することが、後でいわゆる「不祥事隠し」のレッテルを貼られる要因となります。したがって、公表ルールをあらかじめ策定しておくことは、こういったバイアスを少しでも減らすために有効かと思います。
しかし、一方で公表ルールが詳細なものだと担当者が思考停止に陥ります。品質問題が生じた場合には公表するが、異物混入の場合には公表しない、といったルールについて、常にこのルールに従ってよいものではありません。たとえば単発的に事故が発生した場合であればよいとしても、すでに事故が公表され、世間から対応が注目されている中で、二度、三度と事故が続くようなケースでは、たとえルール上は公表は不要と判断されるものであったとしても、これを公表すべきです。ご承知のとおり、JR福知山線事故の後のJR西日本のATS作動問題、大阪エキスポランドにおける遊技機事故の後の、別の遊技機の故障問題など、平時であれば公表せずにすむ程度の事故であったとしても、世間の目が向いている時期に発生したからこそ、「不公表」の判断が世間から大きな非難を浴びました。
また、SNSで騒がれていたり、内部告発や内部通報によって第三者による公表のおそれがあるケースでは、自社で公表することが「事故隠し」と評価されないためにも望ましいと思います。これも「当社では不祥事は必ず起きる」といった思想から出発しなければむずかしいところですが、不祥事や事故を公表するためのルールを平時のリスク管理として検討し、有事には柔軟な対応が可能になるように策定することが望ましいのではないでしょうか。公表ルールの存在は、インサイダー取引等の法令違反を防止する効果もあるかもしれませんが、有事における自浄能力発揮のための意識高揚・・・といったところに主眼を置くほうがよいと思います。【了】
山口利昭(やまぐち・としあき)/山口利昭法律事務所代表弁護士。
大阪府立三国丘高校、大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(平成2年登録 司法修習所42期)。現在、株式会社ニッセンホールディングス、大東建託株式会社の社外取締役を務める。著書に『法の世界からみた会計監査 弁護士と会計士のわかりあえないミソを考える』 (同文館出版)がある。ブログ「ビジネス法務の部屋」(http://yamaguchi-law-office.way-nifty.com/weblog/)より、本人の許可を経て転載。