若年層の需要を呼び覚ます、バイク業界の「暖簾の味」

2014年12月14日 19:19

 1971年、日本に新しいヒーローが誕生した。その名は「仮面ライダー」。以来、43年に渡って、仮面ライダーは世の男の子たちの憧れだった。バイクを駆って颯爽と現れ、怪人たちをなぎ倒す、正義のヒーロー。その精神は新シリーズに脈々と受け継がれ、圧倒的な人気を誇り続けているのだ。

 仮面ライダーシリーズは玩具市場でも常に主力商品として君臨し、日本経済にも大きな影響を与えている。仮面ライダーグッズを取り扱うバンダイナムコホールディングスが8月に発表した2015年3月期第1四半期決算の補足資料によると、通期計画で266億円となっており、同社が抱える豊富なキャラクター商品群の中でも二番目に位置する人気商品であることがわかる。

 ところが、そんな仮面ライダーシリーズに異変が起こっている。それは、現在放送中の「仮面ライダードライブ」。その名が示す通り、同作品のモチーフはバイクではなく自動車で、シリーズとしては初めて自動車を運転するライダーが主人公として登場するのだ。

 一般社団法人 日本自動車工業会・調査部会の二輪車分科会が行った、「2013年度二輪車市場動向調査」の結果によると、二輪車の国内需要台数は2008年度以降42万台前後で推移しており最盛期には遠くおよばない。しかしながら、その一方で、二輪車を複数台所有している家庭の平均保有台数が1.6台と、前回調査の1.5台から微増ながら増加している様子もうかがえる。また日本人の心の中に「二輪車は危険な乗り物」という意識を植え付ける原因となった、「オートバイの免許を取らせない」「オートバイに乗せない」「オートバイを買わせない」という3つの指針を掲げた「三ない運動」も時代とともに大きく方向転換して緩やかになった。また、二輪業界もバイクは危険な乗り物ではなく「技術を身に付ければ、安全で楽しい乗り物」と安全啓蒙を積極的に展開する事により、若年層の市場回帰を図ろうとしている。

 中でも積極的なのが、ヤマハ発動機だ。MotoGPなどでも「コーナーのヤマハ」「直線のホンダ」といわれるように、操作性の良い機体がヤマハバイクの特徴だが、同社では、今年の夏から同社のグローバルサイトの技術コンテンツとして、「ハンドリングのヤマハ(英題:Yamaha Handling)」を公開している。「ハンドリングのヤマハ」は、ヤマハの現場で職人たちの間で伝承され続ける独自の価値基準=「人機一体感のあるハンドリング特性」に迫ったコンテンツで、1970年代に世界GPを転戦した元グランプリライダー・根本健氏が執筆を担当している。根本氏は17年間にわたって月刊ライダースクラブの編集長を務めたことでも知られており、当時、同誌でも同じ題名の連載を執筆して人気を博した。18年の時を経てウェブサイトでこの人気記事が復活したことで、ファンの注目を集めている。

 かつて同連載で取材を受けたという、ヤマハSP開発部実験グループの小島儀隆氏も「ハンドリングのヤマハ」の伝統を「ヤマハモーターサイクルの暖簾の味」と表現しているが、氏が走行実験プロジェクトチーフを務め、8月20日に国内発売されたばかりのスポーツバイク「MT-07」(689cc)は、ヤマハらしいしなやかな走り味と評判で、欧州でもすでに高い評価を得て、販売も好調だ。まさに暖簾を受け継いだ職人の技と気質が息づいているバイクといえるだろう。

 仮面ライダーでも、記念すべき平成シリーズ第一作目となる仮面ライダークウガで、主人公クウガの搭乗するスーパーバイク・トライゴウラムのベース車にヤマハ社の大型バイクV-MAXが使用されるなど、平成仮面ライダー人気の火付け役として貢献している。

 ただでさえ、人機一体となって走るバイクの爽快感は、他の乗り物にはない魅力がある。さらには景気の低迷やエコロジーの面からも、バイク移動の利点が見直されつつある今、「ハンドリングのヤマハ」が若者層の興味を喚起することができれば、需要の巻き返しを図ることも十分に可能ではないだろうか。(編集担当:藤原伊織)

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