特許法改正がもたらす日本の未来は明るいのか

2014年12月7日 16:04

 11月17日、社員が職務上発明した特許について、特許庁の特許制度小委員会は、特許法改正により特許を受ける権利を、現行の「社員のもの」から「会社のもの」にする案を示した。一方で報酬の支払いを会社に義務付け、発明を行った社員が不当な扱いを受けることを防止しようとしている。

 このような改正案が示された背景として、発明について特許を受けるための権利を会社に帰属させるために、会社が社員に対し「相応の対価」を支払わなければならず、「相当の対価」の基準をめぐり高額の訴訟が相次いだことにある。経団連などは「高額の訴訟リスクがあると企業の競争力が弱まる」として、特許を受ける権利を最初から会社に帰属させる法改正を求めていた。

 法改正が認められれば、会社は相当の報酬を支払わなくても特許を受ける権利、ひいては特許権を失うリスクはなくなる。しかし、法改正を受けて会社が特許権を失わないという安心感から、社員に対する報酬の支払いを渋るのであれば、高度な技術開発能力を持つ科学者が海外に流出する危険がある。

 多数の科学技術的成果を出し、それらの急速な産業化に成功している米国においても、発明者である 社員から特許を受ける権利の譲渡を受ける際に、当該社員に報酬を支払うことを義務付ける法律はない。しかし、米国では、社員が職務上発明した発明の特許を受ける権利を会社が承継するには、事前に社員と発明譲渡契約を結ぶ必要がある。米国では、日本と異なり労働市場の流動性が高いから、発明譲渡契約の内容に不満がある科学者は自己に有利な会社に移動することを選択できる。

 米国と異なり、労働市場の流動性がさほど高くない日本で、発明の特許受ける権利が科学者に帰属するという担保を失った場合、科学者が職務上の発明に励むインセンティブはないに等しい。それどころか、需要の高い優秀な科学者は、自分に合ったインセンティブが見込める企業を選択できる米国に移る可能性がある。

 科学者への報酬を値切った結果、優秀な科学者が会社からいなくなれば、会社は利益を得ることはできない。それどころか、「ものづくりの日本」から科学者がいなくなってしまうかもしれない。今一度、何が企業、ひいては日本の未来にとって有用な選択か考え直す必要がある。(編集:久保田雄城)

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