世界遺産の保全に活用される、日本の技術

2014年12月6日 20:35

 2014年12月現在、日本には14の世界文化遺産と4つの地域が世界自然遺産としてユネスコの世界遺産に登録されている。世界遺産とは、1972年に採択された「世界の文化遺産および自然遺産の保護に関する条約」、いわゆる「世界遺産条約」に基づいて、ユネスコが「顕著な普遍的価値をもつ人類のかけがえのない遺産」と判断したものだ。

 世界遺産に選ばれることは、その国や地域の誉れであるだけでなく、国内外の観光需要の増加という大きなメリットをもたらす。例えば、11年に世界自然遺産に登録された小笠原諸島では、11年度の来島者が前年比で6割増を記録、また山梨県南都留郡富士河口湖町から富士山五合目付近に至る有料道路・富士スバルラインでは、大型連休中の通行量が3割増となった。これは取りも直さず、13年に富士山が世界文化遺産に登録された影響であることは間違いない。さらに富士山周辺では、2020年に東京オリンピックの開催が決定したこともあって、今後はその相乗効果で海外諸国からの観光客増加が期待されている。

 しかし、世界遺産への登録はメリットばかりでもない。国内外からの観光客が急激に増加することで、その地域の住民の生活に少なからず影響がでることは否めない。交通渋滞やゴミなどの問題、治安の悪化などのほか、建物の損傷や貴重な自然環境が損なわれたりしてしまうケースも考えられる。とくに富士山では世界遺産登録以前から、環境保全やごみ問題、登山者の安全対策などの課題が山積していた。世界遺産リストに選出されたものは、「国境を越え、世界のすべての人びとが共有し、次の世代に受け継いでいくべきもの」とされているため、大きな責任が付きまとう。もちろん、人の手による損傷や劣化だけではない。経年劣化や自然環境からも保護する必要がある。

 「富士山-信仰の対象と芸術の源泉」の構成遺産として、登録されるまでに紆余曲折のあった、静岡県の三保の松原もその一つだ。日本三大松原の一つにも数えられる美しい松原の保全には、松くいの防除が不可欠となる。主に殺虫剤を地上や空中から散布する方法が取られ、中でもヘリコプターによる空中散布が有効とされているが、コストが大きな課題となっていた。ところが先日、産業用無人ヘリコプター(以下無人ヘリ)による松くい防除の試験散布が行われ、低コストな上に防除効果も高く、さらに作業時間も短いということで注目を集めている。

 試験散布に使用されたのは、ヤマハ発動機社製の無人ヘリのニューモデル「FAZER」。無人ヘリはもともと、ラジコン操作によって空中からの農薬散布などを行うため、主に農業の分野で使用することを目的に開発されたものだが、農業分野の枠を超えて、幅広い用途への活用が広がっているのだ。

 三保の松原だけでなく、全国各地で防風林としての松林の保全が急務とされており、今後無人ヘリの活躍が期待できる。同社では、無人ヘリから撮影した静止画を3次元処理することで状況を視覚化し、早期の診断、予防、治療につなげるなどの保全管理についての研究も進めているという。またこのような散布事例だけではなく、福島県における空中線量率の調査や、桜島や霧島・新燃岳への地震計設置および空中磁気観測などでも無人ヘリが活躍している。

 さらに言えば、世界遺産や自然の保全という面で考えれば、それは日本だけの課題ではない。世界遺産が「国境を越え、世界のすべての人びとが共有し、次の世代に受け継いでいくべきもの」であるならば、そこで活用されている有効な技術も、世界のすべての人びとが共有するべきものであるはずだ。(編集担当:藤原伊織)

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