小惑星探査機「はやぶさ2」、出帆 6年にわたる航海のはじまり

2014年12月4日 11:28

 三菱重工と宇宙航空研究開発機構(JAXA)は12月3日、小惑星探査機「はやぶさ2」と3機の小型副衛星を搭載したH-IIAロケットの打ち上げに成功した。いよいよ「はやぶさ2」は、人類未踏の地へ向けた、6年に及ぶ長く険しい航海に挑む。

 ロケットは2014年12月3日13時22分、鹿児島県・種子島にある種子島宇宙センターの吉信第1射点から離昇した。ロケットは順調に飛行し、打ち上げから約1時間47分21秒後に「はやぶさ2」を、またその後「しんえん2」、ARTSAT-DESPATCH、PROCYONの3機の小型副衛星も続々と分離した。

 その後15時44分に、米航空宇宙局(NASA)が持つ深宇宙ネットワーク(DSN)を構成する、米国カリフォルニア州にあるゴールドストーン局のアンテナが「はやぶさ2」からの信号が捉え、太陽電池パドルの展開や太陽捕捉制御などの一連のシーケンスが正常に行われたこと、また探査機が所定の軌道に投入されていることが確認された。この時点で打ち上げの成功が確認された。

 さらにその後、内之浦宇宙空間観測所にあるアンテナを使い、軌道のより精密な測定などが行われている。

 このあと「はやぶさ2」は約2日間をかけて、クリティカル・フェイズと呼ばれる、リアクション・ホイールによる三軸姿勢制御の確立や、サンプラー・ホーンの展開を行う。ここがまずひとつの山場となる。これが完了すれば、続いて初期運用フェイズと呼ばれる、数か月かけて各機器の初期チェックを行う期間に入る。初期運用フェイズは来年2月ぐらいまでかかる見通しだ。

「はやぶさ2」は、かつて2003年に打ち上げられ、小惑星イトカワの探査を行った後、2010年に地球へ帰還した「はやぶさ」の後継機となる。目的地は1999 JU3と呼ばれる小惑星で、有機物や含水鉱物をより多く含んでいると考えられている「C型」という種類の小惑星で、先代の「はやぶさ」が赴いたS型小惑星のイトカワと比べ、より始原的な天体であるとされる。

「はやぶさ2」は自身の持つ観測機器を使って探査を行い、また砂などのサンプルを採取して地球に持ち帰るというミッションを背負っている。「はやぶさ2」による観測や、また持ち帰ってきたサンプルを地球上で分析したり、さらに先代の「はやぶさ」や他の小惑星・彗星探査機が得たデータと比較することで、太陽系の起源と進化や、生命の原材料を探求することを目指す。

「はやぶさ2」は「はやぶさ」の後継機ではあるが、新しい装置を積んだり、内部にも手が加えられているなど、数多くの改良が施されている。その結果、少しばかり背は高くなり、また質量も90kgほど増えている。

 例えば先代「はやぶさ」では多くの故障を経験したが、「はやぶさ2」では再発を防ぐため、設計を見直したり、予備の部品を多く搭載するなどの対処が行われている。

 また、宇宙航行時に使用するイオンエンジンは、耐久性と推力が向上している。地球との通信に使うアンテナも、より高速で通信ができるような改良がなされている。その結果、「はやぶさ」で特徴的だった白く大きなパラボラアンテナは、2枚の円盤状のアンテナに変更されている。

 もっとも大きな違いは、小惑星サンプルの採取方法だ。「はやぶさ」では表面からのサンプル回収を行ったが、「はやぶさ2」では表面からの採取に加えて、インパクターと呼ばれる装置から砲弾を小惑星に撃ち込み、内部の物質を露出させ、そこに着陸してサンプルの回収を目指す。サンプル採取は3回行うことが予定されている。

 また、先代「はやぶさ」に搭載されていた小型ローバーのミネルヴァは、ミネルヴァIIへと進化し、今回は計3機が搭載されている。さらにドイツ航空宇宙センター(DLR)を中心に欧州で開発された小型ランダーのMASCOTも搭載されており、これらは小惑星1999 JU3到着後、「はやぶさ2」から分離され、小惑星の表面へと降ろされる。

 今後「はやぶさ2」は、2015年の11、12月ごろに地球スイングバイを行い、速度を上げ、軌道の方向を変える。そして2018年の6、7月ごろに目的地である小惑星1999 JU3に到着する。そこで約1年半にわたって探査活動を行い、2019年11、12月ごろに小惑星を出発、そして2020年の11、12月ごろに地球に帰還カプセルを投下する。カプセルは地球の大気圏に再突入し、先代と同じオーストラリアのウーメラ砂漠に着陸する予定だ。

 探査機本体はカプセル分離後も航行を続け、別の星の探査を行うことなどが計画されている。

「はやぶさ2」のプロジェクト・マネージャーを務める國中均さんは、打ち上げ後の記者会見で「6年間の深宇宙航海が続くわけですけれども、我々プロジェクト一同、大変緊張しています。決して宇宙航海は簡単なものではありません。『はやぶさ』ができたからといって、同じ航海ができるものとは考えていません。これから厳しいことが待ち受けているだろうと思っています。『はやぶさ2』は『はやぶさ』の経験を基に、良い探査機に作り込めたと思っていますが、たった600kgの小さな小船で宇宙の大海原に乗り出そうというわけですから、きっと厳しいオペレーションが待っているだろうと思います」と、その心境を語った。

■JAXA | 小惑星探査機「はやぶさ2」(Hayabusa2)の探査機状態および軌道計算結果について
http://www.jaxa.jp/press/2014/12/20141203_hayabusa2_j.html

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