【コラム 吉原恵太郎】弁護士としての転落を示した貴重な懺悔録、『転落弁護士』(下)

2014年11月22日 19:59

【11月21日、さくらフィナンシャルニュース=東京】

■ 出所後は人生のデフレスパイラル


 さて、内山元弁護士だが、出所後、まず紹介で動物霊園に就職する。そこはいわゆるタコ部屋で、管理人から通帳まで取り上げられて奴隷扱いを受けた上、従業員に首を絞め殺されそうになる。そのため、保護観察官に事情を説明した上で脱出する。

 その後就職活動を続けるも、年齢等の問題で全く仕事が見つからない。多所を経て、ようやく住み込みで催事場の仕事を見つけるが、今度は、タコ部屋のオーナーがヤクザという超ブラック企業であることが判明。

 監視の中、夜中に部屋を脱出して、線路伝いに最寄り駅まで逃亡する。

 その後も、見つかる就職先といえば、インチキ食品の販売やタコ部屋生活の労働現場ばかり。仕事を続けたくても長続きしない。ついに進退窮まりホームレス寸前になったところで、再び、「魔の誘い」が。

 法律事務所や元弁護士を支配下に置く非弁の「ハマのマッちゃん」から、月収100万で非弁行為をするよう誘いを受けるのだ。札束の誘惑にほとんど乗りそうになるが、先輩弁護士から一喝されて踏みとどまる。

 そして先輩弁護士や恩師のアドバイスを受け、懺悔録を綴り始める--。

■内山元弁護士の所在は不明


 「転落弁護士」の本文はこの辺りで終わるが、さらに気になるのはその後である。単行本(2005年刊)の内山氏の略歴だと「出所後、さまざまな職業を転々とし、現在、押谷法律事務所の調査員を務める」とあるが、文庫版ではこの記載が削除されている。そのため内山氏の現在は一切不明である。

 筆者が「転落弁護士」を初めて読んだのは司法修習生のときである。弁護修習先の恩師の書棚にあって気になり、図書館で借りて貪るように読んで強いショックを受けた(恩師は内山氏と同じ司法修習30期であり、知合いだったのかもしれない。)。
 
 しかし、弁護士登録後に「転落弁護士」を読み返したときのショックは、司法修習生のときの比ではなかった。

 悪事をはたらくことで苦労して得たバッジを奪われ、仕事もろくに見つからない。さらに身につけた法律業務のスキルも有料で提供すれば弁護士法違反(非弁行為)になってしまう…。弁護士登録後はリアルにその重みを感じることができ、文字通り手に汗をかいたし、気分まで悪くなってしまった。

 弁護士は、「基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする。」(弁護士法第1条1項)、非常に公益性の高い仕事だ。このような弁護士の使命を実現させるためには、一般の方々の弁護士に対する信頼を維持・向上させることが必須であり、普段の弁護士活動を律していくことが不可欠である。

■自身の弁護士活動に警鐘を鳴らせ


 「転落弁護士」は類書の見当たらない極めて貴重な記録であり、この本を読むことで、自身の今後の弁護士活動に対する警鐘になることは請け合いである(もちろん他士業や他業種でも十分に読む価値がある。)。
 
 そのため、筆者は、全ての弁護士(若手のみならず、諸先輩方におかれても)が「転落弁護士」を読むことを強く薦める次第である。

 「裏筋の連中は、自分の代理人である弁護士を意のままに使おうと思って、札束の誘惑や甘い女体のにおいなどの罠を仕掛けてくるのです。

 私のように誘惑に負けてしまうと、実に悲劇的な結末が待ってます。若い弁護士の皆さんは、そのことを肝に銘じて、どうか、目先の収入や若い女体のにおいに目がくらんで道を踏み外すことのないようにしてください。これは、落ちるに落ちてB級刑務所の懲役の身にまで転落した私が、腹の底から絞り出した叫び声なのです。」

 最後に、「転落弁護士」のあとがきから以上の一節を引用し、本稿を終えたい。【了】

(編集部注)以上のコラムは、【コラム 吉原恵太郎】弁護士よ、いまこそ『転落弁護士』を読もう:弁護士としての転落の帰結を示した貴重な懺悔録(上)の続きです。

吉原恵太郎(よしはら・けいたろう)/弁護士
1976年、埼玉県春日部市生まれ。立教大学法学部卒、明治大学大学院修了。埼玉弁護士会にて弁護士登録し、交通事故、成年後見等を専門分野として多数の案件に取り組む。東京弁護士会に登録替えし、むくの木法律事務所のパートナー弁護士に就任。現在は日本の資本市場における少数株主の権利擁護活動にも力を入れている。

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