【コラム 山口利昭】みんなのウェディング:経営者関与による不適切会計処理未遂は公表する必要があるか?
2014年11月21日 15:14
【11月20日、さくらフィナンシャルニュース=東京】
ごく一部のマニアックな方々の間ではすでに話題となっております東証マザーズ上場「みんなのウェディング」社の不適切会計処理問題ですが、実態を伴わない売上が(ブライダル部門の売上として)計上されていたことについて、同社社長の関与が社内調査委員会の調査で判明した、とリリースされています(リリースはこちらです(http://v4.eir-parts.net/v4Contents/View.aspx?cat=tdnet&sid=1197585))。社員の親族の披露宴が行われていないにもかかわらず、行われたようにして、その売上計上分については社長の私財から入金されていた、というもの。社長及び担当取締役らとしては、業績未達を少しでもよく見せようとの思いから及んだ行為だそうです。
会社側は、「投資家向けの財務報告では訂正済みなので、これは粉飾決算や会計不正事件ではない」と反論されていますが(反論のリリースはこちら(http://www.mwed.co.jp/press/release/20141114220820))、売上が伸びているように財務報告を行うつもりだった、という意味においては不適切な会計処理が社内で行われたことは事実でしょうし、その責任をとって代表取締役社長さんは、今年12月25日に辞任されるそうです。ちなみに「12月25日」といえば、1年前の12月25日、不適切な会計処理事件で第三者委員会が設置された小売業のマツヤさんの件で、監査法人さんに内部告発文書が届いた日です。このマツヤさんの事件も、過大な売上計上分を経営者らが自腹で補てんしていたことが印象的でした。私財を投入してでも業績を良く見せたい・・・という経営者の気持ちを察すると、これらの事件はなんとも切ない気持になります。
この「みんなのウェディング」社のケースでは、監査法人さんが「不正の疑惑」を発見し、同社の監査役会に調査依頼、その後監査役3名と社外取締役1名(いずれも非業務執行役員)で構成される社内調査委員会が設立され、この委員会が代表取締役社長による「穴埋め」の事実を確定したようです。他の業務執行取締役や幹部社員等も関与していたそうなので、不適切会計処理を早期に発見するためには、やはり非業務執行役員の存在は大きい、と感じます。
さて、ここからは私の個人的な意見であるため、関係者の方々にご迷惑がかからないように配慮したいと思いますが、どうもこの事例については素朴な疑問が湧いてきます。会社側が反論しておられるように、財務報告には訂正済みの数字が記載されているのですから、決算訂正の必要もなく、したがって監査法人から適正意見がもらえなかった、というわけでもありません。だとすると、実際にも提携先の結婚式場からの広告料等は増えていて、同社の業績は好調のようですから、(やや不謹慎ながら)社内における不適切な会計処理の事実については公表せずに、そのまま何もなかったかのように振舞う・・・という選択肢はなかったのでしょうか?(いえ、決して「公表しなければよかったのに」といった意見を持っているわけではなく、可能性のひとつとして考えなかったのだろうか、といった感想でございます)
これは本当に私の単なる推測ですので、真実は全く異なるかもしれませんが、監査法人が実態を伴わない売上計上の疑惑を発見した、とありますが、(上記マツヤさんの事例のように)監査法人に内部告発が届いた、という可能性は考えられないでしょうか。社員が関与していた事例でもあり、また内部告発が存在した場合には、そのまま公表しないでいると第三者(たとえば行政当局や大株主)から指摘される事態に発展してしまいます。
つぎに非業務執行役員の方々が、「いくら才覚のある経営者であったとしても、このコンプライアンス経営の時代に、これは公表しないわけにはいかない」と進言して、最終的には社長辞任を求めた、という可能性も考えられます。こういった場合は、同社のガバナンスが効いて、今後の大きな会計不正リスクを早期に低減させた、ということになりそうです。いわば会計監査人と監査役との連携が奏功し、かつ非業務執行役員によるモニタリング機能が効いた典型例かと思います。まさに「ダスキン株主代表訴訟の教訓」が活かされた例といえそうです。
最後に、取締役全員の総意により、「社外役員から指摘されるまでもなく、この事例は不公表などありえない」との気持ちから公表したとなれば、これは同社の企業風土としては立派なものだと思います。まさに、経営母体であったDeNAの南場智子氏の経営精神を受け継いだものといっても良いのではないでしょうか(ただ、不適切会計処理に関与していた取締役さんがおられたので、どうも可能性としては低いように思えますが・・・・・)。
KPMG-FASさんが今月7日に公表しておられる「日本企業の不正に関する実態調査2014」(http://www.kpmg.com/Jp/ja/knowledge/article/fas-newsletter/Pages/fraud-survey-summary.aspx)によりますと、経営者が関与する会計不正事件の発覚要因については、内部統制よりも圧倒的に内部告発等の通報によるものが多いとされています。もちろん、不正リスク対応基準が施行され、監査法人さんの職業的懐疑心の保持、発揮がモノを言ったケースかもしれませんが、(本件をあえて公表した、という事実を考えますと)本件に内部告発はなかったのかどうか、そのあたりについて事実を知りたいところです。【了】
山口利昭(やまぐちとしあき)/山口利昭法律事務所代表弁護士。大阪府立三国丘高校、大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(平成2年登録 司法修習所42期)。現在、株式会社ニッセンホールディングス、大東建託株式会社の社外取締役を務める。著書に『法の世界からみた会計監査 弁護士と会計士のわかりあえないミソを考える』 (同文館出版)がある。ブログ「ビジネス法務の部屋」(http://yamaguchi-law-office.way-nifty.com/weblog/)より、本人の許可を経て転載。