『いまどき真っ当』な投資家道(6)『丸木強氏が説く、アクティビスト投資術』
2014年10月31日 10:46
【10月31日、さくらフィナンシャルニュース=東京】
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丸木強/まるき・つよし
株式会社ストラテジックキャピタル代表取締役。1982年、東大法学部卒。野村証券に入社し、政府・政府関係機関・地方自治体・数百社に及ぶ上場企業の資金調達や民営化企業の大型IPO等を手がける。99年に(株)M&Aコンサルティング設立に参画する。取締役副社長を経て、2006年、(株)MACアセットマネジメント代表取締役に就任。最大時で約4400億円の規模となったMAC Active Shareholder Fund(アクティビスト・ファンド)の運用責任者として、投資を実行する。2012年、アクティビスト・ファンド「ストラテジックキャピタル」を設立し、日本株投資を開始する。
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■わからないものには投資せず、理詰めで投資する!
高山 前々回の「『もの言う株主』はなぜ嫌われる?」(※1)、前回「私がアクティビストになったワケ」(※2)に引続き、最終回ではいよいよ、丸木さんの具体的な投資手法について伺っていきたいと思います。初めに、丸木さんの投資哲学をお聞かせください。
丸木 哲学と言えるほど立派なものかはわかりませんが、「わからないことはしない」ということが大事だと思います。
例えば、人気のスマホ向けゲーム関連株などの中には、何倍にもなるような銘柄もあるのかも知れませんが、自分は理解出来ないので手を出しません。残念なことに私では、そのゲームが面白いかどうかがわかる感性がないのです。
証券会社の支店で営業していた頃は、ファミコンが売り切れとの表示を見たら、すぐ支店に戻ってお客様に電話して任天堂株をお勧めするといったこともしましたが、それも大昔の話しです。
とにかく、自分がわからないものには投資しません。
次に大切なのは「理詰めで考える」ということです。
投資家の中には、「よし!この株大きく下がったから買いだ!」という感覚だけで売買する方がいます。これでは上手く行くかどうかは五分五分です。下がるのにはそれなりの理由がありますから。
私は感覚での投資はやりません。徹底的に理詰めで考えます。
この会社はこのような価値があるだろうと、ひとつひとつ積み上げて考えるのです。その上で、この会社の価値はここまでだから、「ここまでは買っても安全だろう」、逆に、「いくら以上なら売って良い」と、判断するわけです。
投資家の皆様から預かっている大切なお金ですから、感覚や感性での運用は決して出来ません。以上の2点は、私自身の失敗の経験からも学んだことです。
■社長と直接「会って」話さないことにははじまらない
高山 御社は、株主提案も積極的に行っています。株主提案を行う前に対象企業と水面下でのやり取りなどをするケースもあるのでしょうか。
丸木 それはケースバイケースです。担当役員や担当者とお会いできても、社長が会って頂けないケースでは、株主提案をする場合もあります。
私は社長と会えるか、会えないかをとても重視しています。やはり、最高責任者がどのような方かを面談のうえ確認し、どのような経営方針なのかを直接お聞きすることが大切です。
当然ですが、我々は投資先の会社と仲良くしたいと考えています。しかし、社長が妙に頑な態度になって、会ってくれなかったりすると対応をハードにせざるを得ません。そうしなければ、伝わらないからです。
基本的に、普段から経営者とコミュニケーションがとれて、株主の話しを聞く姿勢の出来ている会社には株主提案などする必要はありません。しかし、最初から我々の話を聞く姿勢をもたない会社の場合は、他の株主さんの賛同を得て行かなくてはなりませんから、株主提案をすることがあります。
結果として株主提案に至ったのはこれまでに3社だけです。
我々が投資先として選んだ会社は、それなりに多くの割合の株式を取得します。結果として、かなり上位の株主になる場合が少なくありません。それにも関わらず、社長に面会を申込んでも、「会いません」、「会えません」という姿勢を崩さない態度には疑問を感じます。
社長ではなくて、担当役員や担当従業員にお会いするケースがありますが、いくら熱心に話しをしても、「いや、今は判断できません」とか、「私ではわかりませんから持ち帰ります」ということが多く、残念ながら話しが進まないのです。また、我々の提案がトップに伝わっているのか、真剣に検討されているのか、などもわかりません。
これも、我々が、「社長」に会いたい大きな理由の一つです。
■投資先に対しては敬意を持って接する
高山 丸木さんの仰っていることは、ビジネスマナーや社会常識で考えれば当たり前のことにすら思えます。世間に思われている「野蛮な来訪者」というイメージとは全く違います。
丸木 私は投資先の会社さんとやりとりする時は、必ず敬語で話すようにしていますし、できるだけ論理的に話すように努めているつもりです。
高山 村上(世彰)さんが世間を騒がせた時は、随分攻撃的だと見られていました。決して村上さんが悪いわけではないと思いますが、アクティビストに対する「虚像」が出来た要因のひとつである気がします。
丸木 確かにそう感じた方も多いかもしれません。村上の場合は、文章にすれば同じでも、話している調子が攻撃的に聞こえる時があったかもしれません。
高山 投資先の選定について、少し教えてください。経営(経営者の行動)が改善されるか否かはどうやって見抜くのでしょうか。
■変わる会社の見抜き方
丸木 こればかりは、やってみないとわかりません。
ある投資先の例をお話します。
表面上は、威厳のある雰囲気の社長がおられました。我々の投資後しばらくすると、筆頭株主の関連会社がかなり高い価格で公開買付を発表しました。我々も運用ですから、当然応募します。株数の上限を設けた買付でしたから、我々の持分はその公開買付でも少し売れ残ってしまう見込みでした。
ですから、公開買付け発表後に社長にお会いした際に、
「長い付き合いになりそうですね。引続きよろしくお願いします。」
といった旨をお話していたのです。
しかし、蓋をあけてみると、全て売れていました。私は、恐らく社長が他の株主に頼んで、我々の持分がちょうど売切れるように応募株数を調整したのではないかと推測しました。
よほど我々の存在が嫌だったのだなあと思いました。このように、株主に対する経営者の対応は、本当にさまざまなケースがあるのでひとくくりに説明することはできません。
もちろん、オーナー系がかなりの割合を持っているケースや、事前に大量保有報告書等の開示書類を見ると、既にいろいろな投資家が投資して撤退しているので「ここは難しそうだな」など、社長と会わなくとも、一定の推測は働きます。
しかし、難しそうだからといって、必ずしも「投資しない」という判断は働かない。その会社が変われば、その分超過リターンも大きくなる。ファンドの資金全てをそのような会社に投資するわけにはいきませんが、難しい会社に投資して成功を得てこそ、本当の意味で「変化を起こした」ということになると思います。
一方、「割安で株主の意見に耳を傾けそうな会社なのに、なぜ誰も投資しないのだろう」と思われるケースに遭遇することもあります。どこかから特別な情報を得ているわけではなく、開示情報のなかから深堀して考えていくと、こうなるはずだという理屈で結論を導き、判断します。
具体的な銘柄はお話出来ませんが、今も新規投資をしています。
■一般株主には、アクティビストはありがたい存在?
高山 丸木さんの話を聞いているとも企業との対話を通じて健全な資本政策や、経営を促し、企業価値を高めるための活動をしている。
「アクティビストは既存の株主の犠牲の元に、短期的な利益を追求している」
といったメディアや一部の識者の意見は全くの誤解だと言えます。
丸木 私もそう思います。例えば、当社は積極的な株主還元を提案する場合が多いですが、保有資産に余裕のある企業しか対象にしていません。一時的に株価を釣り上げて、長期的な成長の機会を奪うような、無理な株主還元は要求しません。
高山 一般株主には、むしろ「ありがたい存在」と呼べるのではないでしょうか。
しかし、活動のコストについては御社が負担しますが、上がった企業価値は他の株主と分かち合うことになる。つまり、一般の株主は、フリーライダーになれてしまいます。どのようにお考えですか。
丸木 フリーライダーについてはある程度仕方のないことだと割り切るしかないでしょう。
無論、我々のそのコスト負担を考慮しても、一定以上のリターンが期待出来る会社に投資していますが、高山さんのご指摘通り、我々の投資手法には様々なコストがかかります。
徹底的な調査、会社との交渉、株主提案等もそうです。ときには、裁判所に訴え、弁護士もお願いしなければならない場合もあります。
■株主価値に対する理解不足が経営の非効率を招く
高山 御社のホームページで公開されている投資先に対する提案事項や総会の会議録、そして日本の株式市場に対するお考えを読ませて頂きました。
どれも「真っ当」で、金融の教科書的に言えば当然という提案も多い。先ほどお話に出た株主還元策でいえば、株主資本コストを下回る収益性の会社が、過剰な資産を株主に還元するのは当たり前の話です。
しかし、先方からの返答はというと「通り一遍のもの」で、質疑が噛合っていないという印象を受けました。
丸木 根気よくご説明差し上げるしかないと考えています。
中にはそもそも、経営者に株主価値やコーポレートガバナンスに対する理解が不足していると思えるようなケースもあります。
例えば、大阪に、とある会社があります。
財務内容が大変優良な会社で、無借金経営、かつ、多額の現金、有価証券、賃貸用不動産を抱えていました。それにも関わらず、昨年、一株あたりの純資産を大きく下回る時価で公募増資を発表しました。この発表で株価は一時急落しました。この会社の経営者一族の資産管理会社が筆頭株主で会長も大株主ですから、自分たちの保有する株の価値も希薄化して減価したわけです。
なぜこのタイミングで増資に踏み切ったのか理解に苦しみますが、推測するに、単に金融市場や株主価値に関する理解が不足していたとしか思えない。
これは一例に過ぎませんが、日本の企業経営者には、こういった方々がまだかなり存在すると考えていいでしょう。
高山 御社の投資先は中小型株が多いです。
丸木 小型株の方が一般的にバリューと価格に歪みが大きいケースが多いことに加え、当社のファンドは資金規模がまだ小さいので、手がけられる銘柄が限られてしまうからです。
高山 では、今後は規模の大きな企業への投資も視野に入って来るわけですね。
丸木 大企業の方が、株式の流動性が高いうえ、外人投資家や機関投資家が多いので、株主提案した場合、賛同してくれる株主の比率が高くなる可能性があるというメリットもあります。
ただし、大企業は改善の余地は大きくても、すでに株価が高くついている会社も少なくないので、投資先の選別は今よりは難しくなります。
資金規模が大きくなれば、まだまだ具体的に投資したい会社はいくつもあります。
■少数精鋭で運営
高山 現在のファンドの資金規模、運営体制等を教えて下さい。
丸木 資金規模は100億円弱程度です。お客様は非上場の法人、富裕層の個人等です。
社内の体制は、投資先の分析や、実際に投資先に足を運ぶのが私ともう一人の2名、トレーダー、コンプライアンス専任担当(11月中に着任)、アシスタントが各1名。合計5人です。あとは非常勤の監査役もいます。
きちんと株主権の行使をしてくれるカストディ(※3)を見つけるのに少し時間がかかりましたが、先日(9月末)に、海外籍のユニット・トラストを設定することができました。なお、6月に適格投資家(※4)向けの運用業の登録を完了させ、200億円まで運用が出来るようになっています。
運用の上限額を外すため、もう少し体制を整えて、適格投資家に限定されないライセンスを取り直すかどうかを検討しています。
高山 資金規模が大きくなれば取締役の派遣なども検討課題になるのでしょうか。
丸木 もちろん検討はします。ただ、取締役に入ってしまうと、インサイダーになってしまう。当社は、プライベートエクイティファンドではありませんから、ケースは非常に限定されるでしょう。本当に腹を据えて投資する先なら考えられます。
高山 読者には、一般投資家だけでなく、金融業界を目指す学生さんもいらっしゃいます。丸木さんのようにファンドマネージャーになりたいと考える若者は、今後どういうキャリアを積めば良いのでしょうか。
丸木 まずは、証券会社なり運用会社に入って、基本的な知識を勉強すると良いでしょう。私の場合も、証券会社に勤めていた期間は長かったのですが、運用の経験はありませんでした。しかし、資産運用ビジネスをやりたいという強い情熱があれば、なんとかなる。
若い方には、ぜひがんばって頂きたいと思います。(聞き手・SFN特派記者 高山泰三)【了】
※1 「もの言う株主はなぜ嫌われる」(http://www.sakurafinancialnews.com/news/9999/20141017_1)
※2 「私がアクティビストになったワケ」(http://www.sakurafinancialnews.com/news/9999/20141024_2)
※3 証券投資を行なう投資家の代理人として、有価証券の保管、受渡済、議決権行使などの幅広い業務を提供する、常任代理人業務。
※4 適格機関投資家、上場企業などの特定投資家に加え、保有資産100億円以上の厚生年金基金と企業年金基金、保有投資性金融資産3億円以上の法人、個人(証券口座開設後1年経過)や組合の業務執行組合員などのこと。
[高山の一筆御礼]
■人のインセンティブに深く着目
インタビュー当日はお忙しい中、ありがとうございました。
取材冒頭で、「マスコミの方には私の意見をちゃんと聞いて貰って、ちゃんと報道して欲しい。正確なことを伝えて頂けるなら、きちんと時間をとってきちんとお話しする。」とおっしゃっていたことがとても印象的でした。
実は、お会いする前は、「怖い人だったらどうしよう」など失礼なことを考えていました。しかし、すぐにそれが全くの思い違いであると気がつきました。
紳士的な語り口。論理的な内容。難しいことを平易な言葉でシンプルに説明する力。
批判する場合も感情ではなく、正確な事実から淡々と仮説を導き、対話を諦めない。「真っ当」な企業と投資家の関係はかくあるべし、と勉強させて頂きました。
お話しを伺っていて、強く感じたのは、丸木さんは人のインセンティブ(行動する動機)にとても深く着目しているのではないかということです。「確かに自分がその立場だったらそうするだろうな」と妙に腑に落ちるのです。
企業を「モノ」としか見ていないかのような言われ方をするアクティビストが、実は一番企業の経営者やそこで働く「人」に目を向けているのだとしたら皮肉な話です。
私自身は、まず個人投資家として、議決権行使をきちんと行い、緊張感のある良い関係を企業と構築することが第一歩であると思うに至りました。今後ともご指導頂ければ幸いです。
蛇足かもしれませんが、丸木さんと面会すらしようとしない企業経営者の方は、一度、対話の機会をつくってみることをお勧めします。企業の有権者である投資家の話を聞くことは、企業経営、企業価値向上に必ず役立つことでしょう。「アクティビスト=悪人」という色眼鏡は、百害あって一理なしだと思います。
たかやま・たいぞう/SFN特派記者
1976年、東京生まれ。米国ワシントン州公認会計士・文京区議会議員(民主党所属)。立教大学法学部卒、早稲田大学大学大学院修了。大学卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)にて中小企業向け融資業務を担当。個人投資家として数社に対する株主提案の共同提案者となり、増配や社外取締役の選任を促す等の成果を得る。文京区では監査委員等を歴任。
[会社紹介] 株式会社ストラテジックキャピタル
設立:2014年10月
住所:東京都渋谷区恵比寿西1-3-10
資本:2,000万円
取締役:丸木強、加藤楠
監査役:中塩信一(東陽監査法人代表社員)
2014年6月:投資運用業(適格投資家向け)登録
2014年7月:一般財団法人 日本投資顧問業協会に加盟
2014年9月:海外籍Unit Trustを設立
投資家のリターンの最大化のため、アクティビスト戦略を採用するファンド運営を行う。投資先企業に対し、コーポレートガバナンスの改善等による株主価値向上を促し、日本経済の発展に貢献することを目標としている。日本籍の投資運用業者としては、最も積極的なアクティビスト。
今後は、海外籍Unit Trustへ内外の投資家からの新規出資を募る予定。