『いまどき真っ当』な投資家道(5)「丸木強氏が激白、私がアクティビストになったワケ」

2014年10月24日 11:58

【10月24日、さくらフィナンシャルニュース=東京】

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丸木強/まるき・つよし
株式会社ストラテジックキャピタル代表取締役。1982年、東大法学部卒。野村証券に入社し、政府・政府関係機関・地方自治体・数百社に及ぶ上場企業の資金調達や民営化企業の大型IPO等を手がける。99年に(株)M&Aコンサルティング設立に参画する。取締役副社長を経て、2006年、(株)MACアセットマネジメント代表取締役に就任。最大時で約4400億円の規模となったMAC Active Shareholder Fund(アクティビスト・ファンド)の運用責任者として、投資を実行する。2012年、アクティビストファンド「ストラテジックキャピタル」を設立し、日本株投資を開始する。
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■株主軽視の姿勢を改めるだけでリターンをとれる


高山 前回の「『もの言う株主』はなぜ嫌われる?」(※1)に引続き、今回は日本株の見通し、アクティビストになろうと思ったきっかけなどを伺っていきたいと思います。丸木さんは一度、ファンド運営の仕事から手を引いていたと伺いました。また復活したというのは、日本株全体に明るい見通しかあるからなのでしょうか。

丸木 必ずしもそうではありません。2012年にファンドを設立して運用を開始したら、たまたまアベノミクスがはじまって盛り上がったのです。

再び挑戦しようと思ったのは、日本株全体の見通しというよりも、ガバナンスが良くないとか、株主軽視の風潮を改善するだけでも、かなり超過リターンがとれると考えたからです。

高山 日本で、アクティビストの手法で、超過リターンがとれそうな市場の規模はどの程度あると見ていますか?

丸木 私のやり方で狙える企業群だけでも、数十兆から百兆円程度の時価総額はあると思います。

高山 日本の株式市場全体が約五百兆円とされていますから、対象となる企業はかなり多い。

丸木 正確に言えば、ガバナンス部分で改善余地のある会社はもっとあります。しかし、中には株主軽視で、ガバナンスが良くないというケースでも、株価が実態よりも高くついてしまっている企業もありますので、それは対象から外して考えています。

アメリカですらまだアクティビストファンドが活躍出来る余地があるのですから、日本には相当に広いマーケットがあると思います。

■海外アクティビストファンドが押し寄せてくる


高山 海外アクティビストファンドの国内での活動状況はいかがですか。

丸木 すでに上陸しつつあると言えます。今後はより押し寄せて来るでしょう。

また、今まで以上に法律上の株主の権利を行使してくる可能性が高いと考えています。
これまで、そうした強気の行動は、TCIやスティールなど一部のファンドに限られていましたが、普通にやっても経営が変わらない場合は、権利行使に出ざるを得ないでしょう。

高山 日本で御社の他にもアクティビストファンドは出てくる可能性はありますか。

丸木 もちろんあります。ただし、証券系や銀行系では難しいでしょう。独立系でしょうね。

最近、若い方で大手の投資銀行を辞めて「アクティビストファンドやりたいです!」と私に話しを聞きに来る方も何人かおられました。準備不足のような方も中にはおられますが、志を持っている若い人にはがんばって欲しい。

ただ、彼らが日本籍のファンドマネジャーとして試みるかどうかはわかりません。運用先は日本株で運用者も日本人だが、外国籍のファンドマネジャーというのはありうる。税金や規制の関係などを考えると日本よりも海外に籍を置いた方が、やりやすい部分もあるでしょう。

高山 新規参入する方々に資金の出し手はいるのでしょうか。

丸木 ファンドを始める方の属性にもよりますが、トラックレコード(※2)がない場合は苦戦するでしょう。でも、どんなファンドでも初めは一緒です。村上ファンドの時も、少額ではありますが幸運にも資金を集めることに成功した。それを元にトラックレコードを作ることができた。私も今回は少額から始めたところです。

高山 金融商品取引業者としての登録にあたって、旧村上ファンド出身者で困難はありませんでしたか。

丸木 ありませんでした。法令上の拒否条件に該当しなければ投資運用業の登録はできるはずで、現にできました。

■世間に「悪いヤツ」と思われないように


高山 今の話しと少し関連しますが、日本市場でアクティビスト活動をする場合、司法が尋常ではないというリスクがあると思います。典型的には村上ファンド事件の「慄然とする」地裁判決などがそうです。

今後はそういったリスクをどう回避するお考えでしょうか。

丸木 そこは論点が4つあると思います。世論、検察、マスコミ、そして裁判所です。

1番は、世間の雰囲気=空気でしょう。アクティビストは「悪いヤツ」という雰囲気が出来たら、危ない。日本経済にとっても、「危ない」ことです。「本当は、世の中に対して良いことをやっています」と理解されることが大事です。

1990年に米国の買収ファンドKKR(※3)とRJRナビスコの経営陣の攻防を紹介した「Barbarians at the gate」という本がありました。まさに野蛮者が会社を攻めに来るイメージです。

しかし、SECのメアリー・ホワイト委員長の、

「一昔前、アクティビストは悪いヤツのイメージだったが、最近は、米国経済にとって良いことをやっている」

という旨の発言が、本年1月のニューヨークタイムズで記事になりました。その記事の見出しは、「No barbarians at the gate」でした。

米国ではアクティビストに対する社会的評価が、変わってきています。

高山 日本の世論もそうなってくるのでしょうか。

■日本は検察、マスコミ、裁判所がおかしい


丸木 私たちは、変えるための努力をしていますし、今後も地道に情報を発信していきます。

しかし、検察、マスコミ、裁判所にも大きな問題があります。

例えば、何か事件が起きると、「証拠を検察が作る」ということがある。特に調書をねつ造するケースは大問題です。検察が勝手に調書を書いて、本人に「これにサインしろ」と強要する。容疑者も先ず逮捕して、証人の調書も勝手に用意をして、証人たちに「この書類にサインしろ」と言う----といった手法は許されない。

これは、私が実際に体験しましたから批判できるのです。

厚労省の村木厚子さん(現事務次官)の不当起訴・逮捕事件で少しは良くなったかもしれませんが、この問題は改善の余地が大きいでしょう。

マスコミの在り方も問われています。これは検察の問題でもあるのですが、検察のリーク情報をそのまま記事にする。情報を垂れ流すこと事態、国家公務員の守秘義務違反です。

将来的に検察からリーク情報がもらえなくなることを恐れ、きちんとした取材をする能力が足りないマスメディアは、検察のストーリーに乗っかって大本営発表のリーク情報をそのまま報道する。

このようなメディアに存在意義はあるのでしょうか。

でも私は、一番悪いのは裁判所だと思っています。

検察は起訴するのが仕事ですから、そのために様々な手段を使うのもわかる。しかし日本の裁判所は、検察の言うことを鵜呑みにして起訴された事件の99.9%を有罪にしてしまうという異様な事態となっています。民主主義国家の刑事裁判とは思えません。あたかも、北朝鮮のようです。

勾留の問題も指摘しておきたいところです。否認していると勾留が繰り返し延長されていく。しかし、最終的に「不可解な勾留延長」を認めているのは裁判所です。

裁判所にも、「これは執行猶予だろう」などの相場観があるはずです。しかし、いとも簡単に勾留が延長される。元外務省職員で作家の佐藤優さんは、最終的には執行猶予なのに一年半も勾留され、実質的な禁固刑を科された。

結果として検察の「人質司法」を裁判所が主導することになっています。絶対に改めるべきです。

高山 私も同じ認識です。「村木事件」でもそうでしたが、検察の横暴な捜査手法には、それを許している裁判所に根本的な問題がある。

■私がアクティビストになろうと思った理由


高山 話は変わりますが、野村證券でエリートコースを歩んでいた丸木さんがなぜ、アクティビストファンドをはじめようと思ったのですか。

丸木 80年代から90年代かけて、それこそKKR等の米国の企業買収の本を何冊も読んで「日本でもできないものか」と、ぼんやりと考えていました。

M&Aコンサルティングを一緒にはじめた村上は、ご存知の通り、灘中・高での同級生です。大学も一緒でした。しかし、本当に親しくなったのは社会人になってから。学生時代は、お互いの存在は知っていましたが、遊ぶグループなどが違いました。

実は、1988年〜1990年まで当時の通産省(現経済産業省)に出向していた時期がありました。その時に村上と再会し、親しくなったのです。

出向期間が終わってからも、年に2〜3回は会うようになって、「日本の資本市場はおかしい」、「なんでこんなに割安に放置されているのか」、「経営者が勉強不足だ」など議論していました。

私も、株主総会運営(野村證券の)の裏方としての仕事をしたことがあったので、疑問を共有できた。当時は、総会の壇上に座る役員のために、想定問答をつくり、回答の準備をしましたが、質問に正面から答えずに誤魔化す回答も作成しました。

最も大切なはずの株主総会を形式的にこなしているだけという実情を目の当たりにした。役員だって株主から報酬を貰っているにも関わらず、適当に想定問答を読んで、シャンシャンで済ませば良いという姿勢に疑問を感じた。

「自分はなぜ、こんなことの手伝いをしているのだろうか」

と、思ってしまった。

営業の仕事についても、バブル期には上場企業のエクイティファイナンスの引受を随分やらせてもらいました。証券会社は随分儲かりました。でも株式は希薄化していくわけですから、結果として株主のためにはならなかった。

それで、90年代の半ばのある時に、ふと気がついてしまった。

「ああ、自分は今まで良くないことをしていたな」

180度「転向」したのはその後です。

■株主の価値を上げる提案


それからの私は「株主価値を上げる様な提案をしよう」、ということを社内で急に言い出しました。

そして、いくつかの提案をお客様にさせて頂きました。

例えば親子上場の会社さんですが、時価総額の歪みがあって、完全子会社化した方が、既存株主にも親会社にとっても有利なケース等です。

しかし、営業に行っても「今日は、有意義なお話をありがとうございました」で終わり。お客様の反応も極めて薄い。最終的に、株主として提案しないと会社は動かないのではないかと思うようになりました。

そんな頃、村上から「一緒にやらないか」という話があった。40歳で野村證券を辞めました。

高山 そもそも、東京大学法学部ご出身というと官僚や法曹に進む方が多い。そんな中、野村証券に就職したのはなぜですか。

丸木 学生時代はあまり勉強しない学生でしたから、官僚や法曹ははじめから眼中にありませんでした。それよりも、4年でちゃんと卒業して、厳しそうな民間企業に進もうと考えた。

そして、金融業界に進もうと思っていた。たまたま最初に内定を頂いたのが野村證券でした。ただ、一日違いで損害保険会社からも内定が出たので、もしそちらが早ければ、損害保険会社に就職していたかも知れません。そんな、いかにも浅薄な学生らしい理由です。

高山 なるほど。薄い影のようだった丸木さんの半生がなんとなく形になって見えてきたように感じます。次回は具体的な投資手法について伺っていきます。(聞き手・SFN特派記者 高山泰三)【了】

※1 「丸木強氏、アクティビストの真の価値を説く。『モノ言う株主』はなぜ嫌われる」(http://www.sakurafinancialnews.com/news/9999/20141017_1)

※2 トラックレコード 投資信託や投資ファンドといった金融投資商品の収益実績の履歴

※ 3 KKR コールバーグ・クラビス・ロバーツ1976年に設立された世界有数の資産運用会社。レバレッジド・バイアウト(LBO)の先駆者であるヘンリー・クラビスとジョージ・ロバーツが主導し、大型で複雑なバイアウト案件を中心に手掛けている。

 たかやま・たいぞう/SFN特派記者
1976年、東京生まれ。米国ワシントン州公認会計士・文京区議会議員(民主党所属)。立教大学法学部卒、早稲田大学大学大学院修了。大学卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)にて中小企業向け融資業務を担当。個人投資家として数社に対する株主提案の共同提案者となり、増配や社外取締役の選任を促す等の成果を得る。区議会議員としては監査委員等を歴任。

 ストラテジックキャピタルとは:投資家のリターンの最大化のため、アクティビスト戦略を採用するファンド運営を行う。投資先企業に対し、コーポレートガバナンスの改善等による株主価値向上を促し、日本経済の発展に貢献することを目標としている。日本籍の投資運用業者としては、最も積極的なアクティビスト。今後は、海外籍Unit Trust(2014年9月設立)へ内外の投資家からの新規出資を募る予定。

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