橋下大阪市長のプライヴァシーよりも国民の「知る権利」を優先と新潮が応戦
2014年9月27日 12:27
【9月26日、さくらフィナンシャルニュース=大阪】
さくらフィナンシャルニュース(SFN)が、「橋下徹大阪市長、「父親が元暴力団」という新潮社の報道を名誉毀損で訴える」とのタイトルで報じていた訴訟案件について、新潮社の答弁が判明したのでお伝えする。
事件番号は、平成26年(ワ)第2018号。
原告は大阪市長の橋下徹氏で、新潮社を相手取り、新潮社(本社:東京都新宿区)を相手どり、約1100万円の損害賠償請求を起こしている。
新潮社は発行する雑誌『新潮45』(平成23年11月18日発行、以下、「本件雑誌」)で、橋下市長(当時は大阪府知事)の特集記事(32〜41ページ)を組んでいた。表題は、『「最も危険な政治家」 橋下徹研究 孤独なポピュリストの原点』である。
本件雑誌で被告は、橋下市長の父が暴力団員だった、との記述を記載。
原告は、この部分の記述を、名誉毀損かつプライバシーの侵害として訴えを提起した。
主張は以下の2点である。
(1)近親者が暴力団であったという記述は社会評価を低下させる。
(2)父が暴力団であったことは、事実であるにしても、プライバシーに属する問題で公共性がない。
今回明らかになった被告・新潮社の答弁は次のようなものである。
(1)近親者が暴力団であることは社会評価を低下させない。逆に、不遇な環境でよく努力したという共感を呼ぶ可能性すらある。
(2)出版当時、原告は大阪府知事として、「大阪都構想」を唱え、「日本中の関心」の的であった。注目度の高い政治家である原告の生い立ちが公表されるのは当然。原告のプライヴァシーよりも国民の「知る権利」が優先される。
原告の主張を被告は全面的にはねのけた形だ。
事件は第2民事部合議2係の担当で、裁判長は西田隆裕氏(第42期)、裁判官は斗谷匡志氏(第56期)および狭間巨勝氏。橋下市長側の弁護士は松隈貴史氏、新潮社側の弁護士は熊谷信太郎氏がつとめている。
権力者を批判した文章がおさえつけられれば、権力批判の意欲は削がれ、言論界が萎縮する。被告が「表現の自由」をかかげ、本件雑誌の記述を擁護するのは当然だ。
「本件記事は国民に、原告が改革者か暴君かを判断してもらう材料」であると、被告は答弁書に書いている。ただ、本件記事を読むと、事実に関して虚偽はなくとも、原告の政策や発言に関して、価値中立的な記述ではなく、明らかに批判的な論調もある。原告の、長所と短所をともに列挙して、原告の政治的力量を、読者に「判断」してもらうというスタンスではないように感じてしまう。
権力批判が禁止されれば、権力者の横暴が跋扈してしまう。
だからわれわれは、権力者の発言や行為を絶えずチェックするべきである。しかし、権力者を批判する際の、批判のマナーも、言論活動の倫理として、議論する必要があるのではないか。言論もまた大きな権力なのだから。
次回の弁論準備期日は10月3日である。【了】
フリーライター 井上 聡/いのうえ・さとし。1983年生まれ、福岡県出身。京都大学大学院在学中。専攻は美学・国文学。趣味は加茂川沿いをランニング。
「橋下徹大阪市長、「父親が元暴力団」という新潮社の報道を名誉毀損で訴える」(http://www.sakurafinancialnews.com/news/9999/20140711_5)