「ふるさと納税」も成長戦略? 注目集める関連ビジネス

2014年8月26日 08:41

 政府は生まれ故郷や応援したい地方自治体に寄付すると住民税などが控除される「ふるさと納税」の控除額の上限を引き上げ、制度を拡充する方針だ。7月には菅義偉官房長官が「額を2倍にすることや手続きを簡単にすることを含めて取り組んでいきたい」と述べた。安倍晋三首相がトップの「地方創生本部」新設に向け、準備室を発足させる考えも示した。

 そのような折、地域情報誌を発行するサイネックス<2376>が「ふるさと納税」の関連業務を自治体から一括して請け負う事業を始めたことが材料視され、株式市場でも注目が集まっている。同社は「ふるさと納税」を募る広告宣伝や納付の証明書(受領書)発送のほか、一部の自治体が実施する特産品の選定や発送も代行する。広告宣伝などの関連業務を一部請け負う企業はあるが、全業務を手掛けるサービスは珍しい。同社は地域行政情報誌「わが街事典」を発行し、500近い自治体を顧客に抱える。自治体との結びつきを生かし、初年度に40件の受注を目指す。

 「ふるさと納税」の提唱者は秋田出身の菅義偉官房長官だ。総務相時代、「故郷に恩返ししたいという要望は強い」と導入を提案した。制度の導入には都市と地方の税収格差をならす狙いがあった。都道府県や市町村に寄付をすると、寄付金のうち2000円を超える分が住民税と所得税から差し引かれる仕組み。生まれ故郷や応援したい市町村など、どの地方自治体に対する寄付も対象になる。控除を受けるには寄付した翌年に確定申告をすることが必要で控除の金額は年収に応じて上限が設定されている。

 総務省の調査では、制度を導入した2008年に5万4004件(一部の災害義援金を除く)だった個人の自治体への寄付件数が12年に2.3倍の12万1858件まで増えた。一方、寄付額は77億円から96億円へ25%の増加にとどまった。1件当たりの平均寄付額は14万2582円から7万8780円に減った。13年の寄付は未集計だが、小口化が続いたようだ。

 金額が伸びないのは特産品目当ての寄付が多いためだ。1万円以上寄付すれば5000円程度の特産品で応える自治体が多く、自己負担の2000円は簡単に回収できる。寄付が高額でも特産品は変わらないところが多いので1万円の寄付が増えやすい。総務省は「ふるさと納税を税収格差の是正策ではなく、地場産業の活性化や観光振興のツールととらえる自治体が多い」と分析する。都市に集まる税収を地方に再配分する当初の目的から違った方向へと進み始めた「ふるさと納税」はついに、ビジネスにまで変貌を遂げている。(編集担当:久保田雄城)

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