謎の天体宇宙竜巻「トルネード」の正体を解明

2014年8月21日 17:52

 宇宙竜巻「トルネード」という謎の天体がある。これは、螺旋状の特異な形態を有する電波天体であり、永らくその正体は不明とされてきた。2011年、京都大学を中心とした研究チームによってトルネード両端にX線を放射する高温プラズマの塊が検出され、それが回転ブラックホールからの双極ジェットによって形成されたとする説が提唱された。しかし、そのブラックホールは現在活動しておらず、一時的活性化の原因は全く分かっていなかった。

 今回、慶應義塾大学理工学部2013年卒業の酒井大裕(現東京大学大学院修士課程)と同理工学部物理学科 岡朋治准教授らの研究チームは18日、宇宙竜巻「トルネード」について詳細な電波観測を行い、その駆動メカニズムを解明したと発表した。

 慶應義塾の研究チームは、電波望遠鏡を用いてミリ波帯スペクトル線観測を行い、トルネード方向に二つの分子雲を検出した。これらはトルネードに付随しており、それと激しく衝突している証拠も見出された。また、これらが20 km/秒以上もの速度差を有し、かつ相補的な空間分布している事から、この分子雲同士が過去に激しい衝突を起こしたものと推測されるという。これらの事実から、トルネードの駆動源が、分子雲衝突で形成された衝撃波が30太陽質量以上のブラックホールを通過する際に発生するBondi-Hoyle-Lyttleton降着流による重力エネルギー開放であると考えられるという。

 今回研究チームは、国立天文台野辺山45m電波望遠鏡を用いて同領域のミリ波帯分子スペクトル線の高感度イメージング観測を行った。観測するスペクトル線としては、星間分子雲全域から放射される一酸化炭素(CO)J=1-0 回転遷移輝線(115.271 GHz)とその同位体分子 13CO J=1-0 回転遷移輝線(110.201 GHz)、そして高密度領域から放射されるホルミルイオン(HCO+)J=1-0 回転遷移輝線(89.1885 GHz)を採用した。

 観測の結果、一酸化炭素回転スペクトル線において、トルネード方向に二つの分子雲を検出した。一方は、これまでも知られていた視線速度-14 km/秒の雲を含むもの(分子雲 A)、もう一方はこれまで認識されていなかった視線速度+5 km/秒の雲である(分子雲 B)。分子雲 AとBの質量は、それぞれ 30 万太陽質量と6万太陽質量であり、分子雲Bの方にやや重力束縛度が高い傾向が見られたという。両者は天球面上で避け合うような空間分布をしている。さらに研究チームは、Very Large Array のアーカイブデータを詳細に解析し、トルネード方向の雲 A と B 双方の速度において空間的に広がったヒドロキシルラジカル(OH) 1720 MHz メーザー輝線放射を確認した。

 この事は、トルネードと分子雲 A、B とが激しく相互作用し、分子雲中に衝撃波が発生している事を示しているという。これらの観測事実は、トルネードと分子雲 A、分子雲 B が全て、視線方向上で同じ距離にある事を意味している。また、分子雲 A と B の相補的な空間分布と、これらが約 20 km/秒という大きな速度差を持つ事とを考え併せると、これらは過去に激しい衝突を起こしたも のと推測されるという。

 今回の研究によって、謎の宇宙竜巻「トルネード」の駆動源が20太陽質量以上のブラックホールである事と、そのブラックホールへ質量供給過程が分子雲衝突に伴う Bondi-Hoyle-Lyttleton 降着流である可能性が濃厚になった。私たちの銀河系の中には、太陽の数倍から数十倍のブラックホールが多数存在すると考えられており、トルネードの中心にそれがあること自体は何ら不思議ではない。その存在を間接的に確認した事は、重要な成果の一つと言えるとしている。 (編集担当:慶尾六郎)

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