【コラム 金澤悦子】女はマジメでできている

2014年8月18日 10:26

【8月18日、さくらフィナンシャルニュース=東京】

■このままでいいのかな……のメカニズム

 筆者が総合職女性をターゲットにした転職情報誌の編集長をしていた頃、当時、注目されていたベンチャー企業で、唯一の女性役員として活躍していた女性を取材した。

 どのようにして今の仕事へとたどり着いたのか、今の仕事の魅力は何なのか、などの話を聞き終え、カメラマンが機材を片付けている間、雑談していると、

 「最近、このままでいいのかな、と思うときがあって……」

 と、つぶやいた。

 誰もが羨むキャリアを歩んでいる(ように見えた)彼女とはあまりにも不釣り合いな発言に、筆者は飲んでいたお茶を吹き出した。

 しかし、このような女性は少なくない。

 現に筆者が代表を務める『はぴきゃりアカデミー』では、大企業で総合職として働く女性や、難関を突破し、士業として仕事をしている女性など、一見、輝くキャリアを手にしている女性たちでも、これからの仕事や生き方の方向性を見つけにやってくる。

■周囲の評価と自己評価の不一致

 周囲の評価と自己評価の不一致はなぜ起こるのか。

 心理学博士の佐藤綾子氏によれば、パーソナリティ形成の最終形をrole act(ロールアクト)と呼ぶ。直訳すれば「役割を演じる」ということ。

 人は社会的動物であり、所属するグループの中では期待される役割をこなすことが求められる。

 たとえば、上司の前では「部下」という役割を求められるし、取引先の前では「業者」や「営業担当」などの役割を求められる。また、家に帰れば、「親」や「子ども」という役割を演じる。

 期待される役割をまっとうすることで、社会生活はうまくいく。評価もされる。

 ただ、役割を演じることに一生懸命になりすぎると自分の本当の感情に鈍感になってしまう。

 それが、

 「うまくいっているかもしれないけれど、なんか満たされない」

 という原因のひとつであると筆者は考える。

 もちろん、男性だって役割を演じている。

 ただ、感性分析の第一人者である黒川伊保子氏によれば、男性は空間認識力が高く、ものごとの配置や位置関係に敏感で(だから地図が読めるのだが)、組織においては、ただちに自分の立ち位置をつかみ、序列を重んじる性質がある。

 つまり、役割を演じていても、自分の現在地は把握している。

 しかし、女性は違う。

 男性のそれとは対照的に、女性は視野が狭い。目の前のことに頓着する性質があるため、役割を演じることに没頭しているうちに迷子になってしまう。

 話はそれるが、この「目の前のことに頓着する」という性質は仕事の場面で、頻繁に男性を困惑させているようだ。

 「目の前の大切な何かのために、直属の上司をすっ飛ばしてお偉いさんに直談判したことがある」なんて経験、ある程度仕事を任されたことのある女性なら、一度や二度あるのではないだろうか。

 しかしながら、女性のスタンドプレイは秩序を守る男性たちにとって生理的に受けつけられない。そのために、

 ・「思いこみが激しい」
 ・「組織をわかっていない」

 などと、成果を上げていても評価されず、結果、キャリアを中断する女性は後を絶たない。本当にもったいないことである。

■コミ筋を鍛える

 今、まさに迷子になっている女性たちはどうすればよいか。

 求められる役割をまっとうしてきたのになんだか心が満たされないと感じているなら、それは自分の「素の声」を聴く力=コミュニケーション筋力が衰えている証拠。

 使わなければ衰えるのが筋肉であるが、意識して鍛えれば、また復活するのも筋肉である。

 筋トレ方法としては、たとえば、amazonの和書コーナーで気になるタイトルをピックアップしてその共通点を考えてみる。録画予約をしている番組の共通点を見つけてみるなど。

 取材した女性の中には、通勤電車の中吊り広告をひたすら見ていたら、モデルや女優の髪型にダメ出ししている自分に気づき、ヘアメイクアーティストへと転身した女性がいた。

 また、損得なしに「やってみたい!」と思ったことに挑戦してみるのも手。

■サンバがきっかけで人生の確信を得る

 筆者の場合、「このままでいいのかな……」と行き詰まった20代後半、中学生まではバレエ、大学ではディスコと、踊ることが大好きだったのを思い出した。

 ラテン音楽も好きだったことから、サルサやサンバを習い始める。

 並行してサンバチームを発足し、仕事の傍らで活動しているうちに、サンバを通じて年齢も職業も多様な人たちとひとつの目標に向かって結束していくことやチームに関わるひとりひとりが成長していく様子に魅力を感じている自分に気づいた。

 サンバがきっかけで自分の生きる道への確信を得たようなものである。

 あなたも「あるべき」「するべき」のほんの少しだけ、「やりたい」ことに割いてみてはいかがだろうか。

 ちなみに、今年もサンバの季節がやってきた。浅草サンバカーニバルにも足を運んでいただけたら幸いである。【了】

 かなざわ・えつこ/株式会社はぴきゃり代表取締役・編集長。1991年、現株式会社リクルートホールディングス入社。94年、株式会社キャリアデザインセンターに創業メンバーとして参画。01年、日本初の総合職女性のためのキャリア転職マガジン「ワーキングウーマンタイプ」を創刊し、編集長に就任。5000人以上の女性を取材する。現在、女性限定「お仕事ブログ」コミュニティサイト「はびきゃり」(http://happycareer.jp/con/)の運営や、オリジナル素質診断ツール「i-color」を使ったセミナーを通じて、年間300人以上の女性たちを「ココロとサイフが満たされる仕事発見」へと導く。著書に、「ハッピーキャリアのつくりかた」(ダイヤモンド社)等がある。

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