正直者と嘘つきあなたはどっち? 京大が脳活動からその原因を解明

2014年8月8日 16:56

 世の中には正直者と嘘つきがいる。しかし、どうしてそのような個人差があるのかは科学的にはわかっていない。京都大学の阿部修士 こころの未来研究センター特定准教授らの研究グループ今回の研究では、正直さ・不正直さの個人差に関係する脳の仕組みを調べた。その結果、報酬(今回の研究ではお金)を期待する際の「側坐核(そくざかく)」と呼ばれる脳領域の活動が高い人ほど、嘘をつく割合が高いことがわかったと発表した。さらに、側坐核の活動が高い人ほど、嘘をつかずに正直な振る舞いをする際に、「背外側前頭前野(はいがいそくぜんとうぜんや)」と呼ばれる領域の活動が高いこともわかったという。

 この研究は機能的磁気共鳴画像法(functional magnetic resonance imaging; fMRI)と呼ばれる脳活動を間接的に測定する方法を用いて、心理学的な実験を行った。実験参加者は、fMRI による脳活動の撮像中に、1) 金銭報酬遅延課題、2)コイントス課題、の 2種類の課題を行った。1)は、報酬を期待する際の脳活動を調べるための課題。この課題では、正方形が一瞬呈示され、その間にうまくボタンを押すことができれば、報酬を獲得することができる。正方形が呈示される前の時点での脳活動を解析すると、報酬を期待する際の脳活動、特に報酬情報の処理に重要な側坐核と呼ばれる領域の活動を特定することが可能だ。

 2)のコイントス課題は、正直さ・不正直さを測定するための課題。この課題で実験参加者は、コイントスの結果-コインが表か裏か-を予想する。予想に成功すると、お金による報酬が与えられるが、予想を失敗するとお金が減ってしまう。この課題は 2種類の条件がある。この 2 種類の条件を、嘘をつくことができない「機会なし」条件と、嘘をつくことができる「機会あり」条件と呼んだ。

 「機会なし」条件では、実験参加者は自分のコイントスの予測、つまり表が出るか裏が出るかの予測を、ボタン押しによって記録。一方、「機会あり」条件では、実験参加者は表が出るか裏が出るかを、自分の心の中でのみ予測。そしてコイントスの結果が呈示された後、実験参加者は自分の予測が正しかったかどうかをボタン押しによって報告する。「機会なし」条件では、実験参加者があらかじめ記録した予測に基づいて、正解・不正解が決定される。しかし「機会あり」条件では、コイントスの予測が成功したかどうかは自己申告に基づくため、ズルをして嘘をつくことが可能になる。したがって、「機会あり」条件において、予測の正答率が偶然の確率を超えている場合は、その実験参加者はお金を得るために嘘をついているとみなすことができる。

 この結果2 つの主要な成果が得られた。まず、金銭報酬遅延課題において測定した報酬を期待する際の「側坐核」の活動が高い人ほど、コイントス課題において嘘をつく割合が高いことが判明した。つまり、脳のレベルでの報酬への反応性が高い人ほど、お金への欲求が強く、結果として嘘をついてしまった可能性がある。

 さらに、金銭報酬遅延課題において測定した側坐核の活動が高い人ほど、コイントス課題で嘘をつかずに正直な振る舞いをする際に、背外側前頭前野と呼ばれる領域の活動が高いこともわかった。背外側前頭前野は、理性的な判断や行動の制御に重要な領域と考えられているという。お金への誘惑に打ち勝って正直に振る舞うためには、報酬への反応性が高い人ほど、より強い前頭前野による制御が必要という可能性を示唆しているとした。

 今後は、報酬情報の処理とそれに関わる側坐核の活動以外に、どのような要因が人間の正直さ・不正直さを規定しているのか、さらなる研究を推進する。また、こうした研究成果が、どの程度現実社会での人間の行動に一般化できるかを明確にしていく方針だ。(編集担当:慶尾六郎)

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