【コラム 山口亮】老後資産の形成に必要なコト:日本の確定拠出年金制度の問題点(下)
2014年8月5日 16:18
【8月5日、さくらフィナンシャルニュース=東京】
●企業型の4つの問題点
では、企業型ではどのような弊害があるのか。筆者は以下、4つを挙げたい。
(1)マッチング拠出
2011年に年金確保支援法(正式名称:国民年金及び企業年金等による高齢期における所得の確保を支援するための国民年金法等の一部を改正する法律)が施行され、12年より企業型で従業員自身も追加で掛金を拠出できる「マッチング拠出」の制度がスタートした。
従業員が自分で拠出する自助努力を推進する制度ができたことは、一歩前進であり評価できるが、税制の面では全く不十分である。
企業型の拠出限度額は月額5万1000円であり、他に厚生年金基金、確定給付企業年金などの企業年金を併用している場合は月額2万5500円までしか拠出できない(※3)。
他に企業年金がない企業の場合でも、会社と従業員の掛金合計は5万1000円を超えられないため、会社が仮に月額4万円を拠出していると、従業員は1万1000円しか拠出できない。
また従業員のマッチング拠出は会社の掛金を超えてはいけないため、会社の拠出が月1万円だと、従業員は1万円しか拠出できない。会社の拠出が少ない30代までの若年層が自ら拠出できる金額が制限され、一方高齢者層のマッチングも、拠出限度額で上限が制限される。非常に使えない制度と言わざるを得ない。
少なくとも、会社の掛け金を上限とする規程は特に明示的な合理性はなく、撤廃するべきと考える。さらに言えば従業員のマッチング拠出は事業主掛金とは別枠とするべきである。
(2)企業型における事業主拠出の限度額
(1)と密接に関連するが、現行の日本の確定給付年金(いわゆるDB)では事業主の拠出限度額が設定されていない。今後、確定拠出年金(DC)は確定給付年金(DB)を代替するものになると考えれば、事業主の拠出限度額は廃止すべきだ。
確定給付年金では限度額は設けられていないのに、確定拠出年金にのみ拠出限度額を制限するのは、政策的な合理性乏しいのではないか。
(3)運営管理機関と金融機関の関係
日本の現状を踏まえると、ほぼ無料(または利益供与を疑われるような安価)で運管業務を受託し、その後に自社系列商品で固め、そこから信託報酬などで利益を得るというビジネス慣行が横行している。
運営管理機関の中立公正をうたう確定拠出年金法(第99条第1項)に反する行為で、運営管理機関に系列の金融機関からの商品選定に一定の数値的制約を課せば、より現実的に運営管理業務の適正化が図れるものと推測できる。
金融商品を販売する金融機関は、商品提供のみの営業に徹すればよく、運営管理業務は適切な手数料で運営する「レコードキーパー(記録管理機関)」が兼務するのが理想である。
現実には金融機関の営業力が普及の制度推進の原動力である以上、運営管理機関に対して自社系列の金融機関からの採用を禁止するのは不可能だが、例えば、
「運営管理機関は、自社と資本関係にある金融機関の商品を一定以上の割合(例えば運用資産の25%)以上選定してはならない」
というルールを作るなど適正な運営に近づける努力が必要である。
制度導入後も運用商品の追加・入れ替えなど競争原理が働き、制度としての活性化が図られる。
(4)記録管理機関の統一化
アメリカのオムニシステムのようにレコードキーパーのシステム仕様を統一すれば、中途で退職した場合の資産移管の利便性も、運管変更も容易にできるようになり、制度が使いやすくなる。
現状では、運用管理機関を変更するために、全ての運用商品を売却し、移換手数料を負担した上で従業員の同意を取得する必要があるなど、現実的にはほぼ実施が不可能である。
●政治と行政の強いリーダーシップ
(3)や(4)については、法改正かあるいはそれに準じた措置が必要であるが、日本で確定拠出年金を普及させると言う観点では、重要な視点である。
いすれにしても、運営管理機関と商品提供機関である金融機関が同一なので、新規参入が困難なことも、この分野での革新が起きにくい一因となっている。
これは個人型でも企業型でも言えることだが、一般的に税収を確保しようとする観点でみると、税負担を軽減する措置であり、税収を確保しようとする財政当局の立場からみると、決して歓迎されない措置である。
これからの社会保障、国民の老齢期の生活に広く便益を与える大きな問題であるにもかかわらず、政治的に積極的にロビー活動をする人や組織はいない。あくまでも薄く広く利益が享受される課題であるため、政治的な点数となりにくい現実がある。
一方、確定拠出年金の拠出限度額や加入資格の拡大は、金融機関にとって利益率の高い他の年金商品が売れなくなることが予想されるため、保険会社を筆頭に、大手
の金融機関は全く歓迎していないという構造的な問題が横たわっている。
より国民の老後生活に資する制度に改革していくには、政治、行政の強いリーダーシップが望まれる。
参考3:平成26年4月現在。平成26年10月からはそれぞれ月額55,000円、27,500円に引き上げ【了】
編集部注:このコラムは、【コラム 山口亮】老後資産の形成に必要なコト:日本の確定拠出年金制度の問題点(上)の続きです。
やまぐち・りょう/経済コラムニスト
1976年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒業後、現在、某投資会社でファンドマネージャー兼起業家として活躍中。さくらフィナンシャルニュースのコラムニスト。年間100万円以上を書籍代に消費するほど、読書が趣味。