【コラム 黒薮哲哉】東京第5検察審査会が、東電の元経営陣に対して起訴相当の議決、くじ引きソフトの疑惑は晴れたのか?

2014年8月3日 01:09

【8月3日、さくらフィナンシャルニュース=東京】

●くじ引きで選ばれる検察審査委員

 東京第5検察審査会は、7月23日、東電の旧経営陣である勝俣恒久(元会長)、武藤栄(元副社長)、それに武黒一郎(元副社長)の3氏に対して「起訴相当」の決議を下した。

 残りの3氏については、起訴しないことが相当とする判断を下した。

 検察審査会というのは、「検察」の名前を付しているが、検察が不起訴にした事件につき、その正当性を検証する組織で、最高裁事務総局の管轄下にある。

 検察の組織ではない。

 裁判員裁判の裁判員と同様に、検察審査員は有権者の中からくじ引きで選ばれる。定員は11名で、半年ごとに半数が交代する。

 検察審査会が「起訴相当」の判断を下すと、検察は対象事件を再捜査して、再び起訴するか、不起訴にするかを決める。不起訴と結論づけた場合、有権者は再度、検察審査会に審査の申し立を行うことができる。

 そして2度目の「起訴相当」決議が下された場合、容疑者は強制的に法廷に立たされることになる。このようなプロセスを経て、刑事裁判に発展した例としては、小沢事件が有名だ。

●福島地検から東京地検へ

 2012年8月、市民団体が福島地検に対して、東電の関係者42人を刑事告訴した。ところが不思議なことに、福島地検はこの事件を、東京地検へ「移送」した。「移送」とは、担当を変えることである。

 東京地検は、早々に42人を不起訴にした。「3.11事故」を想定するのは困難だったというのが、その理由である。

 これに怒った市民団体は、責任追及の対象を旧経営陣6人に絞り、東京検察審査会に審査を申し立てたのである。

 東京検察審査会は、この事件を第5検察審査会に割り当てた。この第5検察審査会とは、どのような組織なのだろうか?

●審査員を選ぶくじ引きソフトの異常

 かつて小沢一郎氏をさばいた第5検察審査会の審査員が架空であった疑惑は、森ゆうこ前参院議員や、『最高裁の闇』の著者・志岐武彦氏、それに市民オンブズマンの石川克子氏らの調査で、かなり信憑性が高い裏付けの証拠が「発掘」されている。

■参考:動画・「市民が発掘した最高裁の闇」

 東電の元経営陣3名に対して「起訴相当」と判断し、残りの3人の責任については不問にふした今回の第5検察審査会の実態は、現在の時点では不明だ。審査員がいるのか、架空なのかは分からない。

 しかし、審査員を選ぶくじ引きソフトが、小沢検審の時と同じものであるとすれば、簡単に不正が可能になる温床が残っていることになる。このくじ引きソフトの何が問題なのか、森ゆうこ氏の『検察の罠』から引用しておこう。

  くじ引きソフトに候補者予定者のデータが入力されてからも、問題がある。前科などの欠陥事由がある者、裁判所職員や警察官など就職禁止規定がある者、本人から辞退申し出があった者など、審査員になれない候補予定者を除外する画面がある。この操作が、ボックスにチェックを入れて承認ボタンをクリックするだけで簡単にできてしまう。「ちょっと手が滑った」ふりをして、特定の誰かを外すのは容易なのだ。

  いや、特定の誰かを外すというよりはむしろ、「選びたい人間だけを選べる」とんでもないシロモノなのだ。しかも、そのような操作を行ったとしても、証拠は何も残らない。

 「そのような操作を行ったとしても、証拠は何も残らない。」のは、くじ引きを実行すると、前画面の入力情報が消えてしまう仕組みになっているからだ。森氏は、この事実を国会議員の職権で調査したのである。

●日本の権力構造のからくり

 このようなくじ引きソフトを採用している限り、検察審査会を管轄する最高裁事務総局の判断で、容疑者の運命を自由に決めることが可能になる。極論すれば、最高裁事務総局が希望する「判断」を確実に出してくれる審査員がそろうまで、審査員の改選(半年ごと)を繰り返し、決定を遅らせばいい。

 ある意味では、日本の権力構造の重大なからくりである。もともと法律の素人に、他人を刑事事件の法廷に立たせるかどうかの判断をさせる制度そのものが、異常としか言いようがない。【了】

 黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)/フリーランス・ライター、ジャーナリスト
 1958年兵庫県生まれ。会社勤務を経て1997年からフリーランス・ライター。「海外進出」で第7回ノンフィクション朝日ジャーナル大賞・「旅・異文化テーマ賞」を受賞。「ある新聞奨学生の死」で第3回週刊金曜日ルポ大賞「報告文学賞」を受賞。『新聞ジャーナリズムの正義を問う』(リム出版新社)で、JLNAブロンズ賞受賞。取材分野は、メディア、電磁波公害、ラテンアメリカの社会変革、教育問題など。著書多数。「MEDIA KOKUSYO」(http://www.kokusyo.jp)より本人の許可を取った上で転載。

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