SiCパワーデバイス開発で透けてみえる“中央(政府)研究所”の終焉と産学連携の未来

2014年7月27日 22:03

 今世紀に入って携帯電話やインターネットなどの情報通信技術の進展は著しく、その発展には多量の電気エネルギーの消費を伴う。エネルギーの電化率が高くなっている現在、あらゆる電気・電子機器には、高性能化だけでなく低消費電力化が強く求められる。2005年2月に京都議定書が発効され、いわゆる「環境の世紀」が始まったとされる。

 これまで半導体デバイスを支えてきたのは主にSi(シリコン)LSIで、20世紀後期はその高性能化の歴史だった。しかしながら、従来技術の延長では、近い将来さまざまな物理的障壁(電力ロスや弱温度耐性など)に直面すると言われてきた。

 したがって、今後、半導体デバイスのさらなる高性能化と低消費電力化を両立させるためには、新しい原理や新しい材料を導入し、ナノテクノロジーに代表される先端技術を積極的に活用することが重要だ。そのため、時代に即した産学連携が始まっている。

 昨年、京都の産学連携で研究開発を進める次世代半導体素材、SiC(シリコンカーバイト/炭化ケイ素)の本格的な普及を目指す取り組みが、科学技術振興機構(JST)の公募事業「研究成果展開事業」の中核として「コアクラスター」に採択された。

 今後、電力損失の少ないSiCパワーデバイスは、自動車業界や家電メーカー、電力各社や鉄道事業社、そしてあらゆる産業機器に搭載され、エネルギーの効率的な利用を促進する。今年3月まで文科省が推し進めてきた「京都環境ナノクラスター」でSiC研究が進んだ。が、いまだSiCデバイスの量産化は世界でも数社に止まるとされるなか、京都大学と共同研究を進めてきたロームなどが量産で先行している。

 このSiCパワーデバイスの更なる効率化、コストダウンを進める量産技術開発にJSTが負担する事業費は5年間で4億円程度とされ、製品量産化に必要な回路やシステム開発に利用する。JSTコアクラスターへの参画機関・企業は、前述の京大やロームのほかに大阪大や神戸大、オムロンや京セラ、村田製作所など20数団体・企業となっている。

 もともと、SiC半導体の需要拡大を見込んでいたロームは、京都大学と東京エレクトロンと協働で、炭化ケイ素製半導体の実用化に不可欠な製造装置のプロトタイプ機を共同開発してきた経緯がある。

 産学連携によって開発されたプロトタイプ機は「炭化ケイ素エピタキシャル膜成長装置」と呼ばれる製造装置で、結晶構造がきれいに整った炭化ケイ素の結晶を作る装置だ。パワー半導体デバイス分野では、現在のシリコン製半導体が近い将来限界に達し、SiC製に代替されると見込んで製品化を進めていた。

 SiC製半導体で優れた研究成果を上げている京都大学とロームは提携関係は古く、1990年頃から炭化ケイ素製半導体デバイスを実用化する共同研究を始めた。この共同研究では、有力な半導体装置メーカーである東京エレクトロンとも垂直連携して、プロトタイプの開発に短期間で成功した。

 京都にはもともと、産学協働・連携という下地があるようで、ロームは早くから産学融合を推進して成功した。SiC半導体の研究成果について世界中の研究拠点をウオッチし続け、SiC研究拠点のなかで、先鋭的な研究拠点は日欧米に3カ所あるとしている。なかでも、京大の研究グループは世界を牽引するトップランナーだという。

 産学連携を非常に早い時期から模索、実行してきた京都先端産業界は、高度成長期の「何が何でも中央政府が管轄」する“中央研究所システム”が技術開発をリードする時代の終焉を見込んでいたのかも知れない。(編集担当:吉田恒)

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