【コラム 山口利昭】監査等委員会設置会社への移行に関する検討ポイント

2014年7月23日 17:55

【7月23日、さくらフィナンシャルニュース=東京】

最新号のビジネスロージャーナル9月号は、「会社法改正を契機に考えるガバナンス体制の見直し」という特集が組まれていますが、その中に実務家の方による「監査等委員会設置会社への移行によるコーポレートガバナンス」という比較的長い論稿が掲載されています。この論稿ですが、監査等委員会設置会社への移行を検討されている企業のご担当者の方にはぜひとも目を通していただきたいと思えるほど、よく整理されています。現時点における対象企業のガバナンスの状況をまず認識したうえで、監査等委員会設置会社を導入する際の長所・短所を検討するというスタンスはまことに当を得たものと思います。

上記論稿で述べられていることは、7月16日、東京の会計教育研修機構(大手町フィナンシャルタワー金融ビレッジ)で「会社法改正とコーポレートガバナンスの強化策」と題する講演をさせていただ際、そこで私がお話した内容に非常に似ています。よく、監査等委員会設置会社は「第三の機関設計」として、監査役会設置会社、委員会設置会社(指名委員会等設置会社)を比較して、どの機関設計が優れているか、といった議論がなされます。また、監査役会設置会社と監査等委員会設置会社との比較において、監査役会設置会社からの移行が検討されることもあります。

しかし、こういった比較対照は、監査等委員会設置会社を解説する場合には、あまり意味がないように思っておりました。というのも、この監査等委員会設置会社は、取締役会の機能をアドバイザリーモデルと捉えるか、モニタリングモデルと捉えるか、という点の選択に強く影響を受けるものであり、移行を検討している会社の取締役会の「現状における特徴」の分析抜きには考えられないからです。むしろ、現時点での検討としては、委員会設置会社(指名委員会等設置会社)にすべきか、監査等委員会設置会社にすべきか、という選択であれば合理的だと思います(なぜなら取締役会の特色として、モニタリングモデルが定着している会社であることが前提となっているからです)。

もちろん、現実問題としては、社外役員の数を増やさずに機関投資家や議決権助言会社からの批判をかわす方策として、監査役会設置会社の社外監査役が「横滑り就任」することへの検討がなされている企業が多いと思います。しかし、社長を筆頭にヒエラルキーが構築されている取締役会の雰囲気を持つ日本企業にとって、内部統制を活用した監査等委員会の活動はあまり期待できませんし、むしろ権限委譲による社長の暴走に「お墨付き」を与えるだけで終わってしまうのではないかと推測します。いや、それどころか、社外監査役のままであれば責任を問われたり、裁判に被告として巻き込まれずに済んだものを、社外取締役に就任したがために過度のリーガルリスクを負ってしまう社外役員の方も間違いなく増えるものと予想しています。

会社側は、費用負担が少なくて済みますし、慣れ親しんでおられる方々が、そのまま社外取締役に就任されるわけですから、おそらく真剣に移行を検討されているところもあるかとは思います。ただ、現時点における上場会社の取締役会の大半は社長のヒエラルキーの元で動いているわけでして、ここで監査等委員会設置会社へ移行する会社が、どこまでガバナンス向上に熱心かは未知数だと思ってしまいます。

日本再興戦略、会社法改正等により、社外取締役導入についての話題が豊富ですが、もし5年後に「社外取締役を導入してもガバナンスは変わらないし、企業価値向上には役に立たないね」といった意見が大勢を占めるようになると、次のガバナンスの議論は間違いなくアドバイザリーモデルからモニタリングモデルへの取締役会の在り方に移るはずです(日本取締役協会さんあたりは、すでにこの点について深い研究が行われているようですが・・・)。そのときにこそ、監査等委員会設置会社という第三の機関設計を用意した意味が明確になるのではないでしょうか。社外取締役導入論→社内取締役・社外取締役が構成するモニタリングモデルの取締役会制度の構築→監査等委員会設置会社への移行・・・という流れが、今回の会社法改正の中で進行していくものと予想しています。【了】

山口利昭(やまぐちとしあき)/山口利昭法律事務所代表弁護士。大阪府立三国丘高校、大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(平成2年登録 司法修習所42期)。現在、株式会社ニッセンホールディングス、大東建託株式会社の社外取締役を務める。著書に『法の世界からみた会計監査 弁護士と会計士のわかりあえないミソを考える』 (同文館出版)がある。ブログ「ビジネス法務の部屋」より、本人の許可を経て転載。

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