深刻化する建設現場の人材不足。業界トップの戦略とは?

2014年7月20日 20:56

 建設業界では今、建設施工者の人材不足が深刻な問題になっている。東日本大震災の復興作業や、消費税増税による駆け込み需要の集中などが重なったことで、大工をはじめとする施工者の取り合い状態となっているのだ。活況であることは歓迎すべきだが、だからと言って、このまま諸手を挙げて喜んでばかりもいられない。

 人手不足の一つの原因は、施工者の高齢化だ。2013年時点での建設業就業者数は約499万人。その内の3人に1人が55歳以上といわれており、彼らが引退してしまえば、さらに人手不足に拍車がかかる。新規入職者の確保と育成、そして定着率の向上が建設業界全体で、待ったなしの課題となっているのだ。

 この問題に対し、住宅メーカーでは木造住宅の住友林業<1911>が、企業内訓練校「住友林業建築技術専門校」を運営し、木造建築に関する技能・技術者の育成を行っている。インターン期間を含め7年の間に、基礎実技実習からモデル棟実習、実践強化訓練などを実施している。その中で群を抜く歴史と規模を誇るのが、住宅トップシェアの積水ハウス<1928>だ。 同社は以前より、現在問題に関わらず、施工技術習得・継承難しさ、「一人親方」とよばれる独立事業主に工事を請負わせることで十分な福利厚生を受けられないといった、建築業界の構造的な問題と人材不足を捉え同社は、直接運営の認定職業能力開発校である「教育訓練センター・訓練校」を茨城県と山口県の東西2か所で運営している。1982年から2013年度までの修了生は、2294人に上る。同社が主眼を置くのは施工者の量的な充足ではなく、施工品質の向上と顧客満足度の向上だ。

 同社の施工子会社である積和建設や約7000社に及ぶ同社の協力工事店に採用された人材を対象に、技術・技能の研修を行うだけでなく、顧客の満足度の向上を図るため同社の企業理念を学ぶと共に、顧客と接する際に必要な教養やマナーも身につける訓練も実施している。修了生は同社の施工現場で技能工や施工管理者として従事し、訓練校修了後も、教育訓練センターでの研修や、国家検定に準ずる技能者検定や奨励金、優秀な技能者を顕彰する制度といった同社独自の資格・認定制度を導入するなど、継続して技能向上を図っている。さらには、独自の年金制度など福利厚生も充実させることで、建設施工者の労働環境の向上も実現している。

 さらに、独自の年金制度など福利厚生も充実しているようだ。このような取り組みにより、従事者は安心して働くことができるため、定着率も高まり、同社は安定した施工力を時代に関係なく確保できるのだろう。東日本大震災被災地に延べ30万人以上の従事者を今も継続して派遣し続けていることからも、同社と従事者の絆の強さは推し測ることができる。

 工場生産された部材を現場で施工して完成させる同社が手掛ける工業化住宅。さらに工場での部材のプレ加工やプレセット化、複合化を推進し、現場作業の削減と施工品質安定化を行っている。部材のプレ加工などで、施工現場での工数を減らすことができる工業化住宅のメリットは大きい。しかしながら、最終的に現場で住宅にするのは施工に携わる「人」。施工力の確保と品質の維持は、建設業界に共通する課題だが、施工の合理化などの工夫と優れた技能を持つ人材の育成の両面での取り組みが不可欠だろう。(編集担当:藤原伊織)

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