公平公正を徹底するなら疑義ある委員排除すべき
2014年7月12日 14:13
政府は地震や津波に対して厳しい審査姿勢を貫いてきた原子力規制委員会の島崎邦彦委員長代理らが9月に任期満了になるのを機に、再任せず、代わりに原発推進派で原子力学会会長経験者の田中知東大大学院教授を就任させる国会同意案件を野党が反対する中、数の力で通した。
田中氏は電力事業者の日本原燃から今年3月まで、三菱FBRからは今年6月まで報酬を受けていた電力業界とかかわりに深い人物。それでも菅義偉官房長官は「受け取っていた額は少額(50万未満)でまったく問題ない」と語った。
本心からの会見コメントであれば、原子力規制委員会の役割をなんと理解しているのだろう。由々しい事態だ。東電福島第一原発事故の深刻さを踏まえ、原発再稼働には世論が二分しているなか、安全性審査については科学的根拠のみより、審査期間の時間制限も受けず、慎重に審査することが最も重要であり、それが期待されている。
これだけ重要な役割を果たすべき委員会に中立・公平に疑義を招くような人物が委員として就任して、国民から委員会への信頼を得られるのだろうか。これは電力事業者から受けた額の問題でなく、利害関係者(利害関係業界)とのかかわりこそが野党からも指摘されたところだ。
国会の場で、改めて民主党政権時代につくった原子力規制委員会委員選任のガイドラインを現内閣も「内規」(菅官房長官の受け止め)ではなく、絶対的選考条件とするよう、質疑を通し導き出してほしい。額の問題でないことを改めて追及すべきだろう。
政府の産業競争力会議でも議員の公平中立に問題があるとの指摘が先の参院厚生労働委員会であった。竹中平蔵慶応大学教授が不適格というものだ。社民党の福島みずほ副党首が指摘した。
福島副党首は竹中教授が「人材派遣大手パソナの取締役会長で、利益相反の観点から雇用規制に公平・公正な立場とは言えない」と提起した。
あわせて「パソナが任期付き自衛隊員の再就職支援事業を13年度から4年間では6億4800万円で受け、昨年10月から始まった早期退職国家公務員再就職支援事業で今年度予算から5184万円で、それぞれ政府から業務委託されている」(政府側も認める)。福島副代表は「ビジネスチャンスが広がる方向で、産業競争力会議でやっている。全く不適格」と利害関係にある旨を提起した。
これに内閣府の小泉進次郎政務官は「一議員の偏った意見、思いで偏った結論に変わることはない」と答弁した。それでは、公平公正な立場に疑義のある議員の発言は会議に反映されないのか。反映させるために議員に選任しているはずだが。
「一議員の偏った意見、思いで偏った結論に変わることはない」という旨の答弁。どこかで聞いた。
NHKの経営委員会委員に関する国会のやりとりで、新藤義孝総務大臣が『個々の経営委員に経営を委託することはできないことになっている。経営委員は合議体を持って経営委員会としていろんな決定を行っていくということになっている。経営委員は個別の放送番組の編集などに関わることはできないことになっている。意見は経営委員会としての意見で・・』と一委員の意見は一委員の意見。経営委員会の結論は偏った結論にはならないと言いたげな答弁だった。論法が似ている。
しかし、結論を導き出す為のたたき台となる「個々の意見」の段階から、それぞれ独自の視点からの意見を述べるにしても、政治的には中立・公正な立ち位置から客観性を帯びたものでなければならない。少なくとも、民放とは、その点が明らかに違う。ゆえに、導き出された答えが公平公正というなら、たたき台を出すそれぞれの委員が疑義をもたれない人物でなければならない。
同様に、国民の意見が大きく分かれるような案件を扱う委員会や機関であれば、尚更、その委員や議員は誰が見ても特定業界や団体などと利害関係のない人物で構成されるべき。公平公正を徹底するなら疑義ある委員は最初から排除すべき。当然のこと。
安倍政権の下で、安保法制、労働法制、原発・エネルギー政策など懸念材料が増え続けている。原発ひとつとってみても、原子力規制委員会が行っている原発の安全審査を迅速にするよう求める提言が経済3団体に続き、月内にも自民党電力安定供給推進議員連盟から政府に出されるとの報がある。
経済界とともに政府を後押しし、原発再稼働を急がせる狙いだろうが、安全審査は時間に縛られることなく原子力規制委員会が委員会の責務で納得のいく審査をすることが最重要だ。
「審査の迅速化、迅速化」と、こうした相次ぐ要望事態が政治的圧力にもなりかねず、東電福島第一原発事故でふるさとを追われている人たちの前で同じことができるのか。安全性を最優先といいながら、経済最優先の姿勢が強く懸念される。
原子力規制委員会は常に「科学的根拠によってのみ」判断する姿勢を貫き通してほしい。あわせて、会議の透明性を一層高めることこそが、政治や業界、団体からの圧力を跳ね除ける力になるだろう。(編集担当:森高龍二)