【経済分析】巨人軍と景気の不思議な関係(上)

2014年7月1日 15:27

【7月1日、さくらフィナンシャルニュース=東京】

私は仕事柄、他のエコノミストに知り合いが何人かいますが、その中で、身の回りの身近なものと景気の関係に詳しいのが、三井住友アセットマネジメントの宅森昭吉さんです。毎月レポートを書かれており、私も楽しく拝見しています。

宅森さんは景気ウォッチャー調査にも詳しく、景気ウォッチャー調査Iを使って株式投資を行う景気ウォッチャー投資法も、もとはと言えば宅森さんのアイデアをお借りしたものです。

私は宅森さんのように、流行歌と景気の関係といったことまで詳しくはありませんが、宅森さんの影響を受けて、「巨人が優勝すると景気は良くなる」というジンクスについて実際に調べてみたことがあります。それはちょうど、巨人軍がセリーグで奇跡の逆転優勝を果たして「メイクドラマ」と呼ばれた1996年でした。

この年のプロ野球は、シーズン当初から広島カープが快調に飛ばして、6月には4位巨人と首位広島とのゲーム差が最大11.5まで開き、巨人の自力優勝が一時消滅するところまで行きました。しかし、7月に入ってから巨人の猛追撃が始まり、結局7月は月間で13勝5敗の好成績をおさめ、広島の連敗にも助けられて8月初めに巨人はついに広島に4ゲーム差まで詰め寄りました。折しもアトランタオリンピックの開催期間に重なっていたために巨人のこの快進撃は当時あまり話題にのぼりませんでしたが、1カ月足らずの間にゲーム差を一気に7.5も縮めた巨人の勢いは驚異的でした。

この時に私は、7月の巨人の大躍進と同じような変化をみせたある経済指標に気が付きました。それは、中小企業金融公庫(現在の日本政策金融公庫)が毎月調査している「中小企業売上DI」でした。

96年3月まで改善傾向にあった中小企業売上DIは4月から6月にかけて悪化傾向に転じ景気は中だるみ状態となりました。しかし7月になると大幅に改善して一気に3月の水準を回復してしまいました(このグラフ(図1))。この時の変化が7月の巨人の快進撃と重なって見えたのです。

結局、このシーズンに巨人は11.5ゲーム差をひっくり返してリーグ優勝を果たしました。巨人の月別勝率と中小企業売上DIをグラフにしてみると、7月だけではなく、シーズンを通して両者の動きが見事に一致していることを発見して私は驚きました。これはどう見ても、偶然に重なったものではありません。

さらに、巨人がリーグ優勝した年と景気との間にもやはり密接な関係があります。

1965年以降昨年までの56年間を景気が良かった年(シーズン期間が概ね景気回復期に当たっていた年)と景気が悪かった年(シーズン期間が概ね景気後退期に当たっていた年)に分け、それぞれで巨人が何回リーグ優勝したかを調べてみると、景気が良かった通算31年間で巨人が優勝したのは19回で、その確率は61.3%であるのに対して、景気が悪かった通算18年間で巨人が優勝したのは6回で、その確率は33.3%でした。もし巨人の優勝と景気の間に何も関係がないのであれば、どちらも56年間に25回優勝した巨人の優勝確率44.6%に近い数字になるはずですが、統計上は、景気が良い年に巨人が優勝する傾向が強くみられるのです。

このように、巨人の好不調と景気の間には密接な関係があることが実際にデータによって裏付けられるわけですが、問題は「なぜなのか」、どのような因果関係がそこに働いているのか、ということです。

他にも、巨人が9連覇した1965年から1973年まではちょうど日本の高度成長期に当たっていたことや、景気が悪かったにも拘わらず巨人が優勝した6回を調べてみると、景気後退期間が非常に短かった1977年や2012年が含まれていることなども考え合わせると、巨人が勝つことと経済の活力との間に何らかの因果関係をあると推察できます。(【経済分析】巨人軍と景気の不思議な関係(下)に続く)【続】

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