【経済分析】アベノミクスを吹き飛ばすエルニーニョ

2014年6月11日 18:41

【6月11日、さくらフィナンシャルニュース=東京】

昨日、気象庁から5月のエルニーニョ監視速報が発表されました。

今後の景気や相場を読む上で私が今最も注目しているのが、景気指標ではなく、このエルニーニョ監視速報の中で発表される海面水温の動きです。(はじめてこのブログを読まれる読者のために、エルニーニョと景気の関係は4/11のブログに、またエルニーニョと株価の関係については4/21のブログに詳しく書きましたので、そちらをご覧ください)

「エルニーニョ」とはスペイン語で「幼な子イエス・キリスト」を意味する言葉です。エルニーニョ現象とは、南米ペルー沖から太平洋中部赤道域にかけての海面水温が平年より高くなることで、その時期になると地元のペルーではバナナやココナツなどが収穫期を迎え、また、北からの暖流にのって日頃見かけない魚がやってくることから、地元の漁民が天からの恵みへの感謝を込めて、水温上昇を「エルニーニョ」と呼んでいたのが、その語源です。

このように地元の人たちにとってはありがたい「エルニーニョ」ですが、実はこれが世界の人々にとっては様々な異常気象を引き起こす原因となるあまりありがたくない現象なのです。日本では、冷夏や暖冬、また93年のような記録的な長雨をもたらし、景気に悪影響を及ぼしてきました。

このエルニーニョが今年の夏に発生する可能性が高いことが気象庁から発表され、今年の夏は冷夏になり景気回復に水を差すのではないかと心配されているわけですが、不思議なことに、たとえ冷夏や暖冬にならなくてもエルニーニョが発生するとほぼ100%(「ほぼ」としたのは唯一2012年の例外があるため)日本では景気が後退局面に入るという経験則があります。さらに、エルニーニョが景気後退より先に現れる時期と景気後退の後から現れる時期が10年周期で交互にやってくるという法則性があります。この法則に従えば、1990年〜2000年と2010年〜2020年はエルニーニョが景気後退よりも早くやってくるので、エルニーニョの発生が景気後退のシグナルとなるのです。

実際に、1997年春にエルニーニョが発生した時に、当時投資顧問会社でエコノミストをしていた私は、顧客向けのレポートに、「足元のエルニーニョの発生は、93年10月から4年近くにわたり続いている景気回復がいったん終息を迎えることを予告している可能性がある」と書いて予測に用いた実績があります。

とにかく、このエルニーニョが発生すると日本では景気後退がやってくるという法則は鉄のように強固で、どんな景気指標を見るよりも景気の先行きを確実に教えてくれる、というのが私の偽らざる実感です。直近では2012年4月〜11月に戦後最短の7か月の景気後退がありましたが、この時は気象庁が一度は「エルニーニョが発生した」と報じたものの結局発生に至りませんでした。「エルニーニョ」は海面水温の平年差(平年の基準値との差)の5ヵ月移動平均が+0.5℃以上の状態が6か月以上続いた場合に発生したとみなされますが、この時は2ヵ月しか続きませんでした。それに呼応するように、景気もまた景気後退と呼べるほどの落ち込みを見せませんでした。海面水温と景気がこのように密接に関係していることは、このグラフからもわかります。

< a href="http://www.sakurafinancialnews.com/data/sfnnoda20140611.jpg">このグラフを見て不思議に思うのは、2011年3月に東日本大震災が起こって生産が一時的に大きく落ち込む数か月前から、まるで地震を予知するかのように海面水温が上昇(グラフは逆メモリになっているので低下)に転じていたことです。

昨日発表された5月のエルニーニョ監視海域の海面水温の平年差は+0.6℃で、4月の+0.3℃からさらに上昇し、いよいよ+0.5℃以上のエルニーニョの領域に入ってきました。気象庁の予測通り、夏にエルニーニョが発生する可能性が一段と高まりました。足元の生産は消費増税前の駆け込みの反動の影響で一時的に調整していますが、夏にかけていったん回復に転じる可能性が高そうです。しかし、秋以降は海面水温の上昇に引っ張られるように生産も本格的な調整局面に入る可能性が否定できません。

消費税の影響も心配したほどではなく、株価も戻り歩調、米国の景気も回復が加速しそうだということで、年後半の景気やマーケットに期待が徐々に高まっているかもしれませんが、足元の海面水温の動きは、年後半に予想外の変化が訪れる可能性を示唆しているように私には感じられます。

景気回復と株価上昇あってのアベノミクスであることを考えると、アベノミクスへの期待が崩れて安倍政権が大きな試練に立たされる時は案外間近に迫っているのかもしれません。【了】

野田聖二(のだせいじ)/埼玉県狭山市在住の在野エコノミスト
1982年に東北大学卒業後、埼玉銀行(現埼玉りそな銀行)入行。94年にあさひ投資顧問に出向し、チーフエコノミストとしてマクロ経済調査・予測を担当。04年から日興コーディアル証券FAを経て独立し、講演や執筆活動を行っている。専門は景気循環論。景気循環学会会員。著書に『複雑系で解く景気循環』(東洋経済新報社)『景気ウォッチャー投資法入門』(日本実業出版社)がある。著者のブログ『私の相場観』より、本人の許可を得て転載。

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