【経済分析】エルニーニョが暗示する米国の景気後退(下)

2014年6月8日 17:39

【6月8日、さくらフィナンシャルニュース=東京】

(以下は、「【経済分析】エルニーニョが暗示する米国の景気後退(上)」からの続きです。)

ここで注意したいのは、「エルニーニョが発生するとなぜ景気が悪くなるのか」と私たちはその因果関係をすぐに問題にする傾向があることです。

たとえば、「エルニーニョが発生すると日本では冷夏になりやすい。冷夏になれば個人消費に打撃を与える。だから景気が悪くなる。」このようなロジックでエルニーニョと景気の関係は一般に説明されます。そのような要素還元的な見方をしなければ私たちは物事を理解できた気にならないのです。

でも、それは裏を返せば、ある一つの納得できそうな理由さえあれば私たちは簡単に物事を理解した気になってしまう(理解したと錯覚している)ということでもあります。
要素還元的に考えれば、「エルニーニョが発生しても冷夏にならなければ景気は悪くならない」ということになりますが、景気とエルニーニョの関係にみられる秩序とは、決してそのような部分同士が影響し合う結果として生じるものではないことに注意が必要です。実際に、1997年春に発生した20世紀最大規模のエルニーニョはその年に冷夏をもたらしたわけではありませんでしたが、日本は景気後退に陥っています。私たちは、ミクロという原因があってマクロという結果が生じる、と考えていますが、両者の因果関係は逆であり、まずマクロが先にあって、それがミクロの在り方を規定しているのです。

このことをまた例によって「ナスカの地上絵」にたとえると、地上絵を台地に描いた人間の頭の中には、すでにその全体の図形(マクロの秩序)が頭の中に描かれていたはずです。そして、その設計図をもとに、台地の地表のどの部分をどのように掘るか(ミクロの在り方)が決められたはずです。掘られた部分部分をつなぎ合わせると確かに全体の図形になるという意味では、「全体は部分から構成されている」と言えるわけですが、台地をどんどん掘り返していって(つまりミクロが原因となって)偶然にそれがハチドリなどの意味ある図形(マクロの秩序)になったわけではなく、最初にまず設計図となる全体の図形(マクロの秩序)が原因として存在すると考えるべきなのです。

それでは、マクロの秩序はなぜ生まれたのか、なぜ気象と景気は連動するのか。

それはちょうど、古代人がなぜ、どのような意図をもって地上絵を描いたのか、と問うことと同じです。ナスカの地上絵を当時の人々がどのような目的で描いたのか、ということについては、暦の役割を果たすものであったとか、雨乞いの儀式を行うために造られたとか諸説がありますが、あくまでも現代人の推測にすぎず、本当の目的が何だったのかは明らかにはなっていません。しかし、何らかの目的があって地上絵を描いたことは確かです。

それでは、マクロに秩序が生じる本当の理由は一体何か。

私は、5/10のブログの中の、宇宙飛行士ジーン・サーナンの語った言葉の中にこそ、その答えがあるのではないかと考えています。古典力学の基礎を築いたニュートンは、その力学理論を記した『プリンキピア』の最後で、「太陽、惑星および彗星という、このまことに壮麗な体系は、叡智と力とにみちた神の深慮と支配とから生まれたものでなくてほかにありえようはずがない」と述べています。また、「万有引力の原因を見つけることはできなかった」と述べ、それを神の直接的な働きかけと考えましたが、私にはこのようなニュートンの言葉が宇宙飛行士の語った言葉と重なってみえます。

次回は、戦前と戦後の70年周期の法則(秩序)から予想される今後の日本経済について書くことにします。【了】

野田聖二(のだせいじ)/埼玉県狭山市在住の在野エコノミスト
1982年に東北大学卒業後、埼玉銀行(現埼玉りそな銀行)入行。94年にあさひ投資顧問に出向し、チーフエコノミストとしてマクロ経済調査・予測を担当。04年から日興コーディアル証券FAを経て独立し、講演や執筆活動を行っている。専門は景気循環論。景気循環学会会員。著書に『複雑系で解く景気循環』(東洋経済新報社)『景気ウォッチャー投資法入門』(日本実業出版社)がある。著者のブログ『私の相場観』より、本人の許可を得て転載。

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