【コラム 高田英樹】日本の財政の真実〜10年越しの改革 社会保障と税の一体改革の歴史(1)

2014年6月3日 10:49

【6月3日、さくらフィナンシャルニュース=東京】

 ●消費税率引上げの目的

 本年4月の消費税率引上げは、唐突に決まった印象を持つ人も多いかもしれない。しかし、これは実際には、「10年越し」の改革のひとつの成果なのである。

今回のコラムでは、その経緯を振り返ってみたい。

消費税率の引上げは、「社会保障と税の一体改革」という大きな政策の一環として行われている。本年4月に3パーセント、そして予定では来年10月に2パーセント、合計5パーセントの引上げが行われることとなっているが、この引上げ分の税収は、全額、社会保障給付に充てることが法律で定められている。

高齢化の進展で増え続ける社会保障費の財源を確保することが、消費税率引上げの目的である。

しかし、この4月から消費税率が引き上げられた割には、社会保障が充実したと実感する人は少ないかもしれない。平成26年度予算においては、消費税率3パーセント引上げによる増収分(国・地方合計)約5兆円のうち、社会保障の「充実」、すなわち、現在よりも高度なサービスの提供に回る分は、0.5兆円に過ぎない。今後、消費税率が10パーセントまで引き上げられ、その税収がフルに入ってくる段階では、5パーセント引上げによる増収額は約14兆円となるが、その場合も、社会保障の「充実」に充てられるのは2.8兆円にとどまる。

では、残りの税収は何に使われるのか?

それは、社会保障の「安定」、すなわち、すでに国民に提供されている社会保障サービスの財源を確保し、持続可能なものとするために使われる。その中で最も大きいのは、基礎年金の国庫負担(保険料に加え、税金で補てんしている分)だ。前述の、平成26年度予算における増収分5兆円のうち、約3兆円がこれに充てられる。

 ●年金制度の安定化へ向けて

 この経緯は、10年前にさかのぼる。平成16年、年金制度について抜本的な改正が行われた。今後長きにわたって年金制度が持続可能なものとなるよう、保険料率の段階的な引上げや、給付水準を自動的に調整する仕組みなどが導入された。

これらに加えて、年金制度の安定のために不可欠なものとして、基礎年金の国庫負担割合を、従前の3分の1から、2分の1へと引き上げることが法律上定められたのである。ただし、この国庫負担割合引上げは、「所要の安定した財源を確保する税制の抜本的な改革を行った上で」行うことが明記されていた。

ここでいう「税制の抜本的な改革」に、消費税率の引上げが含まれることは、暗黙の認識であったといってよい。

もっとも、実際には、国庫負担割合は平成21年から既に、暫定的に2分の1に引き上げられていた。平成20年に起きたリーマンショック等により景気が悪化し、すぐには増税ができない中、社会保障の安定のために、年金国庫負担割合の引上げを先行させたのである。

この間の財源は、積立金の取崩しや、年金特例公債の発行、すなわち借金で毎年度やりくりしてきたが、これらは基本的に、負担を先送りしているにすぎず、安定財源として認められるものではない。消費税率引上げにより、ようやく、平成16年年金改正法が定める「安定した財源」が確保されることとなった。

まさに、10年越しの改革なのである。

この基礎年金国庫負担をはじめとして、今回の消費税率引上げによる税収の大半は、今既に提供されている社会保障サービスの財源確保、つまり、社会保障分野における「負担の先送り」を減らすために用いられる。これでは、社会保障サービスの充実を伴わないまま、増税が先行しているようにも思えるが、そうではない。
高齢化等によって社会保障費が増えていくことはあらかじめ分かっていたのだから、本来、給付の増加と財源確保を同時に進めていくべきだった。

しかし、様々な事情で、財源の確保(増税)ができない中、やむなく給付の増加を先行させてきた。そして、その財源の一部が、今回の消費税率引上げで、ようやく追い付いてきている構図にある。全体としては、増税先行ではなく、むしろ「給付拡大先行型」で社会保障の整備が進んできた。

こうした状況を変え、社会保障の給付面と財源面を一体的に整備していこうとするのが、「社会保障と税の一体改革」である。【了】

注:本稿は、個人として執筆したものであり、組織の見解を代表するものではありません

 たかだ・ひでき/1995年に東京大学法学部卒業後、財務省(旧大蔵省)に入省。1997年から99年に英国留学。2003年から06年に、英国財務省で勤務。2009年に民主党政権下で新設された「国家戦略室」の最初の職員として抜擢された。主計局、主税局等で、主に財政政策に携わっている。個人blogに日英行政官日記がある。

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