リリー・アレンは何故ブランクを飛び越えヒットすることができるのか?
2014年5月27日 17:11
リリー・アレンのアルバム『Sheezus』が、本国UKのチャートで初登場1位(2週目現在6位)を獲得した。Billboard 200においては最高12位。音楽活動の休止と約5年というアルバムのインターヴァル、結婚後のアーティスト名改称宣言といった報道もあったものの、昨年のカムバック・シングル「Hard Out Here」では、脂肪吸引ネタのMVと共に痛烈な「女はつらいよ」節でさっそく一悶着を巻き起こしていた。彼女は今も愛嬌たっぷりで歯に衣着せない、そんなセンセーショナルなリリー・アレンのままだ。
かつてのリリー・アレンのデビュー・アルバム『Alright, Still』(2006)日本盤オビには、「デジタル世代のスカ・ポップ・スター」というコピーが踊っている。その前年末にスタートしたYouTubeの影響力などもあり、彼女は動画サービスを通じて一気にスターダムへとのぼり詰めた最初の世代のポップ・スターだった。そんな時代背景をも自身の舞台とするかのように、2作目のアルバム『It’s Not Me, It’s You』(2009)は海を越えて米Billboardでも最高5位のヒット。R&Bやヒップ・ホップのエッセンスも絡めたカラフルな音楽性が功を奏した。リリーが全幅の信頼を寄せる共同ソングライター=グレッグ・カースティン(ザ・バード・アンド・ザ・ビーのメンバーで、プロデューサーとしてもケシャとシャキーラ、ザ・フレーミング・リップスとフォスター・ザ・ピープルを繋ぐキーパーソンでもある)との名コンビぶりは、デビュー時から最新作に至るまで健在である。
アルバム2作でワールドワイドな成功を収めたリリー・アレンの最新アルバムは、その並々ならぬプレッシャーと熱意を受け止めさせる内容だ。カニエ・ウェストをリスペクトしつつ、ケイティ・ペリーやレディー・ガガ、ロードといったトップ・スターの名を挙げ連ねてファイティング・ポーズを取る表題曲「Sheezus」。<私がビヨンセなら貴方はホヴァ(ジェイ・Z)よ>と歌われるロマンチックなラヴ・ソング「Close Your Eyes」。また、ネット弁慶を皮肉る「URL Badman」では、エイサップ・ロッキーやドレイクらの名前も登場させて現在の舞台に躍り出る。
アーティスト名連発の歌詞で話題性を振り撒く一方、往年のシャーデーを彷彿とさせるハイエンド・ポップの「Insincerely Yours」や「Life For Me」では穏やかだが退屈な生活への違和感が露になり、「Silver Spoon」では生まれ育ちの良さを苦悩として抱えるリリーの本音も赤裸々に吐き出される。結婚・出産を経験し体型を気に掛けながらも、女性アーティストに注がれるそんな視線をこそ笑い飛ばして表現者としての自分を取り戻す。生活に密着したあらゆるテーマを歌にして、彼女は第一線へと帰還した。
どれだけ辛辣で、或いはヘヴィな歌詞を歌っても、あの彩り豊かでキャッチーな楽曲と不変のガーリー・ヴォイスにかかれば、一瞬のうちにリリー・アレンはリスナーの元に帰って来る。かつてインターネット回線に乗って国境の隔たりを飛び越えたポップ・アイコンは、今度は4、5年というブランクの時の隔たりをも、飛び越えてみせたのだ。
Text:小池宏和