全米首位となったジョン・レジェンド、アメリカの重い歴史と未来を繋ぐ表現
2014年5月12日 14:40
先頃、ジョン・レジェンドのシングル「All of Me」が、Billboard Hot 100で30週チャート・インの末、遂にナンバー1まで登り詰めた。現在のR&Bシーンにおいては紛れもなくトップ・アーティストの彼だが、アルバム単位での高評価はともかく、シングル作品としてはキャリア初の快挙でもあった。
昨年のアルバム『Love In The Future』は、オーガニックなフォーキー・ソウル・チューンからQティップが手掛けたスモーキーなトラック「Tomorrow」など、広い視野をもってR&Bを捉え直す意欲作であり、練り込まれたメロディの数々がアルバムに統一感をもたらしていた。「All of Me」にしても、コーラス・パートに至って更にファルセットで2段式に伸びるような、秀逸なメロディがジョン・レジェンドの歌唱力を引き出していた。楽曲の味わい深さや奥行きが、ねばり強いチャート・アクションを支えるひとつの要因でもあっただろう。
ところで、ジョン・レジェンドは今春に日本でも公開されている映画『それでも夜は明ける』(原題:『12 YEARS A SLAVE』)のサウンドトラックを監修している。映画音楽の大御所ハンス・ジマー(『レインマン』や『パール・ハーバー』など)が手掛けたスコアも含む内容だ。ストーリーの原作者は、ソロモン・ノーサップ。19世紀前半にニューヨークで音楽家として活動していながら誘拐され、アメリカ南部で12年間に渡り奴隷としての生活を強いられた人物であり、その伝記小説を元に映画が制作されている。
アルバム冒頭は、音楽家ソロモンの姿を追想するヴァイオリン曲「Devil’s Dream」で幕を開け、ジョン・レジェンドが独唱する18世紀生まれのスピリチュアル・ソング「Run Jordan Run」へと連なる。ここで言うJordanとは、聖書の中でイエス・キリストが活躍する舞台=ヨルダン川のこと。古くから奴隷解放の象徴として用いられているフレーズだ。例えばマイケル・ジャクソンも「Will You Be There」で歌詞の中に織り込んでいる。「Run Jordan Run」は『それでも夜は明ける』のトレイラーにおいても別ヴァージョンが用いられるなど、作品を象徴する一曲だ。
その他にもこのサントラ作品は、あたかも労働歌のように生々しく響くゴスペル「My Lord Sunshine (Sunrise)」や、アリシア・キーズによる物語に沿った書き下ろし曲、アラバマ・シェイクスによるマックス・ローチのカヴァー、ゲイリー・クラーク・ジュニアによるカントリー・ブルース、そしてクリス・コーネル&ジョイ・ウィリアムスによる荘厳なデュエット曲などを収録し、映画の社会・宗教的な主題を踏まえた切り口で、アメリカン・ポップ・ミュージックの根本を問う重厚な作品となっている。
ザ・ルーツとコラボした『Wake Up!』ではソウル・クラシックの数々から伝えるべきメッセージを抽出し、『Love In The Future』では表題どおりに未来の愛を丹念に探り、『それでも夜は明ける』では重い歴史を背負ったアメリカ社会を音楽で読み解こうとするジョン・レジェンド。それぞれ視点は違えど、近年の彼の表現はどれも地続きになっていると思える。
Text:小池宏和