【コラム 山口亮】社外取締役導入は万能薬にあらず(下)

2014年5月7日 17:58

【5月7日、さくらフィナンシャルニュース=東京】日本で取締役会の機能を充実させるには、第一には、取締役個人の教育を、きちんと定期的に受講させるようにすることだ。
「Board Director Training」と検索エンジンで検索してみれば、InseadやIMD、スタンフォード大学経営大学院などの該当するページがヒットするだろう。だが、日本の会社の多くの取締役は、自分たちの取締役としての地位の義務や責任、果たすべき役割について理解していない。

みずほフィナンシャルグループの株主総会では、昨年の役員研修の方針と実績の開示についての定款一部変更議案が31%の賛成を得ているなど、日本国内の機関投資家からも賛成を得られるようになってきている。
毎年、法令や上場規則が少しずつ変わっていったりするので、取締役教育を取締役に年に1回でも受けさせることは、非常に意義があるものだと、国際的には認識されている。
日本の取締役会の惨状はひどいものだから、何かを試みたとしても、これ以上悪くなる可能性は低い。機会費用は事実上ゼロなのだから、やはりトライした方が絶対に良い。

第二に、取締役会構成の多様性について配慮することに関する方針を、各社にポリシーとして開示させることだ。

米国の大手企業の取締役会構成をみれば、女性取締役も複数いることが分かるが、年齢や人種の多様性についても配慮されていることが、感じられる。
多様性を確保するための努力が行われていないと、メディアを含む世論からの攻撃にさらされるであろうという圧力が存在しているからだ。未熟な人間でもいいので、20代でも30代でも、積極的に登用して意見を言わせるべきなのだ。

そのためにも、まずは取締役教育の実施を義務付けるべきだろう。

第三に、少なくとも独立社外取締役を取締役会の議長とし最高経営責任者との分離を図ること、そして議長に予算や人員を含めて、独立した権限をあたえることだ。

HOYAの総会では、「取締役会議長と最高経営責任者の分離」を行う定款一部変更議案について、3年以上前から30%以上の賛成票を集めているし、元経済財政担当相の大田弘子氏をみずほフィナンシャルグループが取締役会議長に迎えること自体は、間違った方向性ではないだろう。

さらに肝心なのは、議長がアジェンダ設定などを主導し、事務方の言いなりにならないで済むような、独立したスタッフと予算を与えることだ。

社外取締役はないよりもあった方がいいというのが私の考えだ。そのためにはコストを払ってもいいという保険のような機能にもなるので、一人や二人、若造がいても悪くない。
仮にその人物が無能でも、取締役会の決定は過半数の賛成で決められるものだから、弊害はないに等しいだろう。

最高経営責任者(CEO)が、 十台以上の社用ジェットと専用の空港格納庫を持ち、スポーツ選手を囲い込んだチーム・ナビスコ。彼が、会社の交際費や経費を大量に浪費しながら、社外取締役や部下たちを手なずけていく姿は、80年代後半にRJRナビスコの最高経営責任者であったロス・ジョンソンについて書かれた、『野蛮な来訪者―RJRナビスコの陥落』(ブライアン バロー (著), ジョン ヘルヤー (著), 鈴田 敦之 (翻訳)、 日本放送出版協会、1990年)に見てとれる。
エンロン事件でも、スタンフォード大学の教授だった社外取締役を手なずけようと、エンロンからスタンフォード大学に大量の寄付がなされたことが、明らかになった。

企業統治先進国の米国でも、長年の苦い経験の結果として、現在の企業統治論が形成されてきたのである。 ローマは一日にならずというべきだろう。

なお最後に付け加えると、審議中の会社法改正案では、スクイズアウトに伴う売り渡し請求の撤回の条文と取得日の制限がないことなどが、少数株主保護のスキームに混乱をきたすであろうに違いない。この点についても色々と言及したいが、別の機会に譲りたいと思う。【了】

やまぐち・りょう/経済評論家
1976年、東京都出身。東大経済学部卒。現在、某投資会社でファンドマネージャー兼起業家として活躍中。年間100万円以上を書籍代に消費するほど、読書が趣味。

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