遠隔操作ウィルス事件:サイバー犯罪に関する刑事司法の判断能力が問われている(上)

2014年4月28日 11:19

【4月27日、さくらフィナンシャルニュース=東京】遠隔操作ウィルス事件(平成25年合(わ)第48号等事件)で、偽計業務妨害、威力業務妨害、脅迫、不正指令電磁的記録借用などの罪に問われている元IT会社員の片山祐輔被告が25日、東京都内の日本外国特派員協会(FCCJ)で会見を行った。

 裁判は、東京地方裁判所刑事4部で継続中だが、片山被告は、3月5日、1年1ヶ月ぶりに収容先の東京拘置所から保釈されている。この日は、片山被告の代理人をつとめている佐藤博史主任弁護士(司法修習所第26期)から、事件の概要について説明がなされた。冒頭、佐藤弁護士は次のように口火を切った。

 「片山氏の無実はますます明らかになっている」

 「この事件が日本社会にとってどのような意味を持っているか話したい」

 そもそも、遠隔操作ウィルス事件とは、どのような事件だったのか。ざっとおさらいしてみる。

 2012年6月から9月にかけて、学校やイベント会場、日本航空などに殺人や爆破予告といった脅迫メールが合計14通届いた。これらの脅迫メールは複数のコンピュータから送信されたものだった。警察はメールのIPアドレスを手がかりに送信元を特定し、4人の男性を逮捕し、その内2人は、虚偽の自白をするにいたった。

 ところが、2012年12月、真犯人から「4人のパソコンを遠隔捜査してメールを送った」という犯行声明メールが届き、「誤認逮捕」が明らかになる。

 そして、2013年1月、犯人から再び「江ノ島の猫に遠隔操作ウィルスのソースコードを保存したSDカードを首輪につけた」というメールが届き、猫の首輪からSDカードが押収された。その際、猫に接した片山被告の映像が江ノ島の防犯カメラに残されていたことから、「真犯人は片山氏」と断定され、逮捕・起訴されたという経緯だ。

 片山被告検挙の根拠は、江ノ島の猫に接していた画像以外に、職業がプログラマーであることや、「脅迫メールを送って有罪とされた前科があること」、職場のパソコンに事件に関する多数の検索履歴が残っていたことだった。

 検察は、このような複数の事実が偶然に重なることはないから、片山被告が犯人であると主張を続けている。

 一方、佐藤弁護士は、

「もともと事件は、犯人が他人のコンピュータを遠隔操作したというもの。犯人が片山氏のパソコンにトロイ型のマルウェアを密かに仕組んで、片山氏を犯人に仕立て上げようとすれば、そのような事実が重なり合うのはむしろ当然。そのような重なり合いから片山氏を犯人と決めつめることはできない」

 と、反論を展開。また、この事件が持つ意味として、4つの問題点を指摘した。

1、日本の刑事司法の判断能力
2、日本の報道機関の報道の在り方
3、日本の捜査当局の捜査能力
4、無実の片山氏の運命

 特に、佐藤弁護士は、「サイバー犯罪に関する日本の刑事司法の判断能力が問われている」と力をこめた。過去の日本の刑事裁判では、裁判証拠は紙媒体だった。しかし元のデータがデジタルであれば、デジタルデータとして開示される必要があり、アメリカでは、そうなっているが、日本は追いついていないのが現状だ。本件でも、証拠は、すべて紙媒体で提示されている。

 「事件を担当する裁判官は3人だが、せいぜいパソコンを使いこなせる程度しか能力・知識しかない。そのような裁判官に、サイバー犯罪を正しく裁けるのか。裁判官だけでなく弁護人にも、サイバー犯罪に関する知識が著しく不足している。そこで、ITの専門家に特別弁護人になってもらいデジタルデータの解析をしてもらっている。しかし、日本には特別弁護人の制度はあるが、裁判官には補助的専門家を認める制度はない」

 と、佐藤弁護士は裁判の在り方をも批判した。【続】

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