感染症に伴う強い疲労感の発症メカニズムを解明 疲労倦怠感の治療法に光明
2014年3月22日 11:48
インフルエンザなどの感染症にかかると、どうして強い倦怠感や疲労感に襲われるのだろうか。経験によって人はそのことを知っていても、これまで感染による倦怠感の発症に関する仕組みは、はっきりとわかっていなかった。そこで理研ライフサイエンス技術基盤研究センター細胞機能評価研究チームの片岡洋祐チームリーダー、大和正典研究員ら研究チームはこのほど、ウイルス感染による脳内炎症によって疲労倦怠感が起こるメカニズムを突き止めた。研究結果はさまざまな病気に伴う疲労倦怠感の治療法の開発につながることが期待される。
インフルエンザなどの感染症にかかると、発熱や筋肉痛とともに強い倦怠感に襲われることがある。これは、ウイルスが気道粘膜などに感染すると免疫細胞が炎症性物質を放出し、そのシグナルが脳に「疲れ」を感じさせているものと考えられている。しかし、ウイルス感染による疲労倦怠感の発症に関わる脳内メカニズムはまだはっきりとわかっていない。そこで、理研の研究チームは、インフルエンザ感染と似た症状を示す「疑似ウイルス感染ラット」を使い、脳内炎症によって疲労倦怠感が起きるメカニズムの解明に取り組んだ。
研究チームは、発熱や自発的な活動の低下といった、ウイルス感染時の急性症状に伴う脳内の炎症性物質の変化を調べた。まず、発熱と疲労倦怠感の関係を調べたところ、ラットに発熱を抑える薬を投与しても、低下した自発活動を回復させることはできなかった。つまり、発熱と疲労倦怠感は別のメカニズムで起きているといえる。
次に、疑似感染ラットの脳内を調べると、免疫細胞から分泌されるタンパク質性因子「インターロイキン-1β(IL-1β)」などの炎症性物質が強く発現していることがわかった。IL-1βは、細胞膜上のIL-1受容体と結合してその細胞の炎症反応を促進する。受容体にIL-1βが結合することを阻む物質「IL-1受容体アンタゴニスト」を脳内に投与したところ、疑似感染ラットの脳内の炎症反応は抑えられ、自発活動の低下は全く起こらなくなった。また、ラットの体内にもともと存在しているIL-1受容体アンタゴニストの量を測定したところ、疑似感染後に大脳皮質や海馬を含む領域で増加しており、この内在性のIL-1受容体アンタゴニストの機能を阻害すると、低下した自発活動の回復が遅れることもわかった。
これらの結果から、もし脳内でのIL-1受容体アンタゴニストの産生に障害が起きると、一過性の感染や炎症が治った後も疲労倦怠感が軽減されず、慢性化する可能性が考えられる。今後、研究チームでは疲労倦怠感からの回復や慢性化に至る詳細なメカニズムを解明し、さまざまな病気に伴う疲労倦怠感の治療法の開発につなげていく方針だ。(編集担当:横井楓)