立ち入り禁止区域でも撮影された“事故の爪痕” 原発事故を描いた映画『家路』、海外も注目
2014年3月8日 19:00
2011年の東日本大震災で引き起こされた原発事故から3年を経て、福島を舞台にした映画『家路』が全国で公開中だ。ひとつの家族のストーリーを通じ、福島の現状を伝えようとするこの作品に、海外メディアが注目する。
【あまりにリアルな背景】
『家路』は、福島の事故で住み慣れた家と土地を残して避難し、狭い仮設住宅に暮らしながら故郷へ戻る日を待ちわびている、ある農家の一家を描いている。2月には、ベルリン映画祭でも上映された。
ロイターはこの映画の背景を「あまりにリアル」と表現。実際、放射線量が高いため、政府によって一時立ち入り禁止とされたエリアで撮影されたシーンが、実際にいくつか使用されたという。
【空っぽの町と仮設のコントラスト】
ロイターは、日本国内で事故後停止している原発を再稼働させるかどうかという議論の中、久保田直監督は、ヒューマン・ストーリーを伝えることを選択したとし、監督が立ち入り禁止区域と仮設住宅のシーンを対照的に撮影していると報じている。
立ち入り禁止区域では、放置された牛が歩き回り、誰もいない通りには雑草が生い茂る。監督は、空っぽになった町を、「すべてが時間の中で凍ってしまった」と表現し、「美しいのに誰も住めない。ある意味、脅かすような何かがある」と述べたという。
その一方で、一列に並んだ窮屈な仮設住宅には、以前は広い家に暮らしていた家族が住んでいる。スカイニュースによれば、監督は「この状況が私たちの心から次第に消えていくことを止めたかった」と述べ、作品は、「(原発問題に)何らかの答えを提示するものではなく、時間を超えた家族の物語だ」と語った。
【原発問題の扱いはソフトに】
ロイターは、「立ち入り禁止区域にカメラを入れるのは、事故の爪痕を見せること」、「久保田監督は実は反原発なのではと思う」という映画評論家、前田有一氏のコメントを紹介し、原発問題の扱いの難しさについて論じている。
日本では、原発問題に過敏に反応することを避ける風潮があり、映画製作者が、「ソフトに足を踏み入れる」一番の理由は、映画の興行収入が減っていることに加え、政治的に一線を越えた重すぎる映画は嫌われるということだ。
福島を扱う上では、2012年の映画『希望の国』の製作の際に、園子温監督も同様のジレンマに直面したという。園監督は、「出資者に映画が原子力についてのものだと言ったとたん、タブーすぎると言われた」と言う。結局、映画の設定を架空の場所と不特定の未来としたことで問題を回避し、継ぎ接ぎするように資金を集めて乗り切った。
また、スカイニュースによれば、『家路』に出演した俳優、松山ケンイチも「映画は原子力に関して肯定も否定もしていない」と述べ、個人としても、映画に出演したことで原子力の是非を考えたかどうかはコメントすべきではないと語った。