見返り求めない無償の行為 その理由は「共感する心」 世界で初めて解明
2014年3月7日 23:20
匿名の寄付行為や自らの血液を提供する献血など、見返りが期待できない無償の行為を人はなぜするのだろうか。人間社会に広くみられるこうした行為の謎をひも解く鍵は、人間の「共感」する心にあることを、北海道大学社会科学実験研究センターの竹澤正哲准教授らのチームが世界で初めて突き止めた。
増田直紀准教授(東京大学(当時))、渡部喬光特任助教(東京大学(当時))、竹澤准教授を中心とするチームが解明した。
人はしばしば協力しても直接的な見返りが期待できない他者に協力をすることがある。この間接互恵と呼ばれる協力行動には2つの型がある。1つ目は、個人の評判に基づくもの。誰かに協力している様子を第三者に見られればその人は良い人だという評判が高まり色々な人から協力してもらえるようになる。他者に協力することが巡り巡って自分の利益となり「情けは人のためならず」というわけだ。
しかし評価者がいないにも関わらず、他者からの厚意を受け取ると見ず知らずの他人、しかも将来的に自分に見返りをもたらすことがなさそうな相手に対して協力することがある。これが恩送りと呼ばれる2つ目の間接互恵だ。自分の利益にはつながらない恩送り型の利他的行動が、なぜこれほどまでに人間社会において普遍的に観察されるのかはこれまで理論的にも実験的にも明らかではなかった。
この謎を解明するために研究チームは機能的脳機能画像法(fMRI)と集団行動実験を組み合わせることで、恩送りを支えている脳のメカニズムを探した。40人以上の参加者からなる集団実験で集積したデータをもとに fMRI 実験において恩送りを再現し、連鎖的協力行動を支える脳活動を測定した。また比較として評判型の協力行動が行われている際の脳活動も測定した。
恩送り型の協力行動では前島皮質と呼ばれる脳部位が、評判型の協力行動では背側楔前部(はいそくけつぜんぶ)と呼ばれる脳部位がそれぞれ特異的に活動していた。これまでの研究から前頭皮質は主に他者への感情的な共感に、背側楔前部はより論理的な推論や自らの損得の推測に関わっているとされている脳部位である。
さらに脳で計算される報酬を実際の行動に結びつけるとされる尾状核と呼ばれる脳部位は両方の協力行動で活動していた。これらの結果は評判型の協力行動と異なり、恩送りでは他者への感情的な共感が何らかの報酬と捉えられ、自分に金銭や評判の形では利益をもたらさない恩送り行動を引き起こしていることを示唆している。
研究結果からは、動物には見られない「共感する心」が、見返りを求めない無償の協力行為を引き起こす原動力となることが示唆された。自分の身をふり返って考えると、この研究結果は確かになるほど、とうなずけるところが多いかもしれない。(編集担当:横井楓)