NHK会長と経営委員 問われる自覚
2014年3月1日 12:45
『何回も言っている通り、私は個人的意見を放送に反映させる気は毛頭ない。そう言い続けていくことによってNHKの信頼は回復できると思っている』。
NHK会長に就任直後の会長会見から衆参委員会での会長就任時の発言の「個人的意見の部分の撤回」、さらに、「政府が右というものを左とは言えない」とジャーナリストの視点や報道機関に身を置くものの精神を放棄した、最初からなかったのかとも受け取れる問題発言が注視された籾井勝人会長。
2月25日の国会では10人の理事全員から日付を空欄にした署名・捺印済みの辞表を提出させていたことも明るみに出た。辞表の白紙委任状を手に、理事を掌握するようなやり方にも会長ポストにふさわしい人物か、疑問の声も聴かれている。
さて、2月12日の経営委員会での議論の一部が28日までに公表された。経営委員の一人は「今回のことは、公共放送機関としてのNHKの存亡にかかわる事態に発展する可能性もある」と最大限の危機感を示した。
12日の経営委員会の議事録確定前に、籾井会長は「自身の発言の真意はこうなのだ」と、またしても弁明しなければ正確に伝わらないかのような弁明を寄せていた。
公開された内容は「私から前回の経営委員会での発言について一言申し上げたい。私は美馬委員の発言を受けて『それでもなおかつ、私は大変な失言をしたのでしょうか』と申し上げた。これは、私の真意とは程遠い報道がなされていることに対して、私の真意、気持ちを理解していただきたい一心で申し上げたもの。会見で申し上げたかった真意は、放送法を守り、公平・公正な放送を行っていくということ。個人的な見解を発言してしまったことで、その真意がきちんと伝わらなかったのではないかと思うに至った。前回の経営委員会での発言は、その思いを申し上げたつもりだったが、皆さまの誤解を生む結果になってしまい、深く反省し、お詫びします」(一部概略)。
公共放送のトップが「自らの発言の真意が伝わらない」あるいは「誤解を招いた」など、言葉を伝達の手段とするプロで、かつ公共放送・特に報道機能が重視されるNHKで、誤解されずに分かり易く、正確に意思を伝えることができないトップとは何なのか。
職員の士気に関わる問題だろう。籾井会長に勇退の気がないのであれば、会長としての自覚を本当に強く持って頂きたいと願う。
加えて、理事から集めた辞表は理事に戻すか、破棄するか、あるいは、自らも経営委員会の委員長に日時を空白にした辞表を預けて役責を果たしていくか、立場は公平にすべきだろう。公平であればこそ、自由闊達に発言できることが担保される。
新入社員が入社時に社の準則に従い職務に精励するなどの誓約書を提出するのは一般的だが、日時を空けた辞表を新入社員に提出させる会社は少なくとも私の知る限りでは皆無だ。理事に返す気がないなら、経営委員長に自らも辞表を預けて仕事をする覚悟を示すべきだろう。
一方、経営委員会が経営委員の言動について示した見解にも理解しかねる部分がある。「経営委員としての職務以外の場において、自らの思想信条に基づいて行動すること自体は妨げられるものではないと認識している」という見解だ。
果たして、それでよいのだろうか。職業倫理はその職業、そのポストに関わる限り、24時間、付きまとうと考えるのが自然だろう。特に、政治家、マスコミ、教諭、警察官など職業倫理が高く、強く求められる職種においては、そこに身を置くものは、その自覚こそ、強く求められる。
公共放送の経営委員が特定の政治家を応援し、特定の政党を支持するような活動をしていて、中立・公平・公正、不偏・不党の公共放送を国民にアピールできるだろうか。国民から不信感を買うことになろう。少なくとも、NHK職員が不偏・不党、公平・公正であるべしと縛りを受けて活動しているのと同程度の縛りを経営委員の肩書きをつけている間はすべてのNHK関係者は受けるべきだろう。そのために放送法改正が必要なら改正すべきと申し上げたい。(編集担当:森高龍二)