【小倉正男の経済羅針盤】中国・経済成長減速と「鬼城」現象

2014年2月8日 07:18

■アメリカ豹変=リーマンショックは「100年に一度の大事件」

 2008年9月に勃発したリーマンショックを思い出してみたい。

 市場経済一辺倒だったアメリカが、まるで手のひらを返したように世界各国に財政出動による公共投資を呼びかけた。  これが『曲者』だった。

 ケインズ経済学など親の敵、あるいは博物館でホコリをかぶった存在と決め付けていたのが、ウソのような豹変ぶりだった。  その時に語られたのが、「100年に一度」「100年に一度の大事件」(グリーンスパン・前FRB議長=当時)というキーワードだった。

 アメリカは、それまで『ひとり勝ちの経済』を謳歌してきた。  ところが、リーマンショックに直面すると、世界経済が引っくり返るぐらいの「100年に一度」の非常事態だから、と危機感を訴えた。

 リーマンショックは、アメリカがれっきとして起こしたバブルだが、崩壊するとなると世界経済を「質」に入れた。確かに、アメリカ経済が破綻したら、人類史上空前の崩壊になりかねない。  これにより突然ケインズ経済学がホコリを払って取り出され、財政出動=公共投資が脚光を浴びることになった。

■中国の大判振る舞い、57兆円超の巨大な景気刺激策

 このアメリカの財政出動呼びかけに、ホワイトナイトとしてさっそうと手を上げたのがほかならぬ中国だ。

 中国の胡錦濤・国家主席(=当時)は、4兆元(当時のレートで57兆円超)の巨大な景気刺激策を追加断行すると応じた。

 これは中国が、世界経済に巨大な存在感を確立した瞬間にほかならなかった。2010年にGDPで日本を追い抜いて世界2位になるテコは、この『大判振る舞い』による。

 中国は、道路、鉄道、空港、都市勤労者向け高層住宅など不足している社会インフラを整備する必要性もあった。北京五輪(2008年8月)をピークに陰りが生じていた経済成長率や都市部の雇用失速にテコ入れを図るという側面もあった。それに資産バブル縮小・崩壊に歯止めをかけるといった事情も秘められていた。

■『輸出』された不動産バブル=「鬼城」現象

 中国の4兆元の公共投資を担ったのは、実体としては地方政府、政府機関、国有企業などだった。国のお墨付きの事業であり、実際には4兆元をはるかに大きく超える乱脈な財政出動=公共投資になったという見方がなされている。

 「列島改造」どころか、「大陸改造」を実行したわけである。 その際、資金調達チャネルとしての役割を果たしたのが、シャドウバンキング(=影の銀行)である。

 リーマンショックのバブルをしのぐために行われた中国の大規模な財政出動=公共投資は、いわば世界経済を救い、そして中国を文句なしの「世界の経済大国」に押し上げた。  しかし、その反面では中国のバブルを膨らませた。特に不動産バブルは、アメリカから中国に『移転』、『輸出』されたという見方がなされている。

 いまでは経済の高い成長の減速傾向も重なり、「鬼城」(=ゴーストタウン)現象にみられるように中国の不動産バブルはいわばかなり危機的な状況が指摘されている。中国は、これをどう収束させるのか。

 ややセンチメンタルに言えば、アメリカは救ってもらったお返しに世界経済のホワイトナイトを演じるべきだろう。 しかし、アメリカはそうした関心はさほど示さず、ひたすら”ひとり勝ちの経済”をまたまた目指しているようにみえる。

(経済ジャーナリスト&評論家・小倉正男=東洋経済新報社・金融証券部長、企業情報部長などを経て現職。『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』(PHP研究所刊)など著書多数)(情報提供:日本インタビュ新聞社=Media-IR)

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