利益最優先の果てに滅びた「おもてなし」の心

2013年11月9日 15:40

 2020年のオリンピック誘致のIOC総会で、最もアピールしたのは日本人が大事に育んできた「お・も・て・な・し」のこころだった。日本を代表するホテルやレストランの現況をみて「おもてなし」など恥ずかしくて言えないだろう。

 海老も、アワビも、牛肉や鶏肉も、キャビアも有名ブランド食材と違うものが、さも、その食材を用いたかのように高級料理として客の前に出され続けていた事実。その食材ゆえの価格を支払って食した消費者にとっては『詐欺にかかったようなもの』。しかも、『偽装』と認めた業者もいれば「誤表示」と言い切る業者もいる。

 納入先が偽って納入したのなら、仕入れ側の管理能力が問われるだろうし、納入業者が正当な表示で納入しているのに、仕入れ側で『誤表示』するようなミスをしたというのなら、毎日の売上の中に、これに見合うだけの商品の食材を仕入れているのかどうか、矛盾は単純に分かるだろう。

 今回の会見報道に連発された「誤表示」の言葉ほど違和感を持ったことはない。ホテルやレストランは接客サービスの最たる業。お客への「おもてなし」のこころが業の原点のはずだが、どこに置いてきたのだろうか。

 東京・大阪・京都・奈良など世界の要人や観光客が訪れる都市のおもてなしの顔が信頼されなくなったら、国際観光立国は掛け声倒れになる。オリンピック選手だって、メニューに半信半疑で舌鼓とは、寂しすぎるだろう。

 今回の相次ぐ問題に「おもてなしの文化」まで滅びてしまったとは言いたくも、思いたくもないので、あえて「おもてなしの心」と表現するが、日本を代表するホテルやレストランで相次ぐ「誤表示」「偽装」という問題は、まさに「国をあげて取り組むべき問題」(菅義偉官房長官)になってしまった。

 おまけに楽天優勝にかこつけ、日本最大級のネット通販で行われた「通常価格を偽っての大幅割引見せ掛け販売」。詐欺といわれても仕方ない由々しき事態だ。

 日本の3方が喜ぶという「商い」の精神はどこに行ってしまったのだろう。事業の基本は商品であれ、サービスであれ、社会への貢献であり、作り手、売り手、買い手それぞれが喜びを得て、結果として作り手や売り手は利益を得、買い手は満足を得る。その繰り返しがあるから『飽きない』で『商い』が成り立っている。そこにあるのは『互いの信頼』だ。

 つくり手は「良い商品をつくろう」、売り手は「喜ばれる商品を売ろう」。買い手は「良いものをつくってくれてありがとう。売ってくれてありがとう」。これが信頼の上に成り立っている。

 しかし、日本長期信用銀行など大手銀行の破綻や建設業大手の倒産が発生するようになって以来、経営者責任へのあやふやな対応や債権放棄が頻繁になるに従い、モラルハザードがひどくなっていったように思われてならない。拝金主義が蔓延し、企業は倒産リスクの回避へ内部留保に傾注し、経営者は株主の顔色を伺って配当には気配りするが、従業員にはコスト削減と利益優先の努力を求め続けてきたのではないか。

 1997年の消費税アップ以降の動向をみても、共産党・小池晃参議院議員の弁によると「大企業に限っては内部留保が170兆円増加、役員報酬は1人200万円増加(年収1700万円に)。株主配当も7兆円増加した。一方、労働者の賃金は年平均で50万円下がった。これが実態」と指摘する。

 企業内での競争激化、部門ごとに収益ばかりを追求する傾向は強まっている。ゆえに、こうした「誤表示」や『偽証』が生まれる土壌がいつのまにかできてしまったのではないか。

 消費者庁は8日、百貨店での料理などの表示、旅館やホテルのメニュー表示などに関し、関係団体に対し「景品表示法での規制対象は顧客誘引に利用するあらゆる表示が対象で、紙への記載、インターネットはもちろん、口頭によるものも表示に該当する」と注意喚起の異例の要請を行った。「故意や過失は要しない」と表示事実そのものが問題だと説明した。

 業界全体に対する不信感が拡大していく中で、業界や各事業者の自浄能力の強化だけでなく、徹底した再発防止策、そして、罰則規定を新たに設定することも視野に入れ、消費者保護の視点から行政府、立法府がシビアに切り込んでいくことが求められている。

 でなければ『国際社会にむけて、おもてなしの日本人の文化をアピールすることは出来ない』。拝金主義を排し、サービス業の原点を取り戻させるべき。オリンピック成功のためにも、是非、厳しい対応を求めてやまない。この問題は世界の人々から日本人への信頼を損ないかねない深刻な要素を含んでいることを忘れてはならない。(編集担当:森高龍二)

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