大丈夫か、「過労自殺」に対する企業認識
2013年6月17日 18:30
過労死が「 KAROUSHI 」として国際語になって久しい。過重労働が原因で、くも膜下出血などの「脳血管疾患」や、心筋梗塞などの「心臓疾患」を発症して死に至る労災事故のことだが、最近では新たに「過労自殺」という言葉も使われるようになった。業務上の過労やストレスが原因の自殺である。厚生労働省の取りまとめた「脳・心臓疾患と精神障害の労災補償状況(2013年度)」によると、うつ病などの精神障害の支給決定件数は325件(前年比17件増)と過去最高であり、うち自殺は66件となっている。
もっとも、年間の自殺者は14年に3万人を切って27,858になったとは言え、勤務問題が原因・動機と特定できるケースは1割近い2,472件も存在する(内閣府「自殺の状況(14年)」)。脳血管疾患や心臓疾患による過労死については、企業も労働法上の責任を認識し、長時間労働を抑制するようになってきている。しかし、過労自殺については、約2,500件の自殺者数に対して請求件数はわずか202件に過ぎない。勤務問題が原因でうつ病を発症し、自殺に至ったとしても、労災事故としての認識がいまだに低いのが現状であろう。
労災保険は、労働基準法に規定されている事業主の災害補償責任を担保する制度である。本来であれば、労働基準法にしたがって、事業主自身が被災労働者に補償しなければならない。事業主が労災保険に加入して保険料を支払うことで、労災事故が発生した場合に補償義務を免れ、保険制度から被災者に給付される仕組みだ。したがって、他の社会保険のように労働者が負担することはない。過労自殺も労働基準法で定める業務上の死亡であり、事業主の災害補償責任が問われる。また、これら労働法とは別に、職場の安全配慮義務違反や不法行為によって、遺族から民法上の損害賠償請求がなされることもある。
企業は法的な責任を認識し、大事に至る前に「心の病」に対するメンタルヘルス対策に取り組んでいく必要がある。(編集担当:坪義生)