本に載らない現場のノウハウ-中小企業の人事制度の作り方:第14回 評価制度の検討(7)
2013年6月11日 13:34
「評価制度」の留意事項について、最後のまとめです。
■結果主義に偏ることの弊害
「途中経過はどうであっても、とにかく結果が大事である」というのが結果主義です。確かにビジネスの世界では最後は結果次第、結果が出なければ会社はつぶれてしまいますから、結果にこだわるのは当然です。そんなところから、結果主義は公正で客観性がある評価と捉える向きもあります。
プロスポーツの世界などは、こんな結果主義の典型であることが多く、どんなに一生懸命練習をしても、どんなに努力をしていても、目に見える形で結果が出たり、成績が上がったりしなければ評価されません。
逆に、練習をサボっていても、結果さえ出れば誰も文句はいわないでしょう。「結果が出ないが、よく練習しているからすばらしい」とは誰も言わないし、「ろくに練習しないが、結果が出ているから良いだろう」ということになります。
これが一般的な会社の中の仕事ではどうでしょうか。
例えば営業職は、結果主義を求められがちな職種ですが、前述の通りならば、勤怠が悪かろうが、途中でサボろうが、とにかく数字さえあげていれば評価されるということになります。結果が出ていれば、誰も文句はいえないでしょう。
逆に、いくら毎日真面目に働いても、数字が出なければ、その真面目な働きぶりは一切評価の対象になりません。どんなプロセスで得た結果なのかは問われません。
毎日毎日一生懸命顧客先を回った末の結果でも、偶然とった電話で何も労せずに得た契約による結果でも、数字が同じであれば評価も同じです。
相手に態度次第で、協力したいと思うか思わないかというチームワークの問題も出てきます。
一見合理的に思える結果主義ですが、このように不条理な部分も多く、ここに偏りすぎることは弊害が大きいといえるでしょう。
■「正しい結果主義」が会社を伸ばす
私が現場を見ている中で、業績が上がっている会社とそうでない会社を、評価制度の面で比べてみると、ある一定の傾向があります。
一つは、途中経過も結果の一部として見る「正しい結果主義」を取っているということです。プロセスも評価に組み入れているという言い方もできます。
評価制度には、「過去を振り返りながら、これから先のより良い取り組みを考えることで、モチベーションを高めて会社の業績向上につなげる」という役割があります。
もうお分かりでしょうが、従来の結果主義では、前段の「過去を振り返り・・・」ということに終始してしまい、後段の「これから先に・・・」という部分が無いか、もしくは著しく欠如してしまっています。
結果が出ているということは、その人の成功体験にはなりますが、その結果を得たプロセスが、あまり労せずに偶然得たもので、その途中経過に対する評価も指導もないままだとしたら、その人はこれから先も偶然ばかりを追いかけるようになってしまうでしょう。これでは業績向上にはつながりません。
こういうお話をすると、「それはその通り!」とおっしゃる方はたくさんいますが、「正しい結果主義」を会社全体で実行できているところはそれほど多くはありません。
普通、評価制度の運用といえば、年に数回のイベントとして、評価表に点数を書いて提出するものという感覚ではないかと思いますが、これではどうしても「評価表を書いて出す」という、まさに過去の振り返りが中心になり、評価者はある時点での目に見える結果だけに注目しがちになります。俗にいう従来の結果主義と実質は同じ進め方です。
これに対して「正しい結果主義」では、常に継続した観察のもとに積み上げた結果と、日常のやり取りで見えているものを元に評価をしますので、評価者による観察の頻度と評価する側とされる側のコミュニケーションの頻度が大きく違います。評価と人材育成とその他マネジメントが、日常業務の中で一体化して回っている感じです。
こういう形にしていくには、制度自体の工夫、マネジメント手法の改善、評価者やその他社員の意識改革など、いろいろな取り組みを継続していくこと、息の長い取り組みが必要です。
短期的にはともかく、長い眼で見た時、やはり良いプロセスが良い結果に結びつく機会は多いはずです。結果とプロセスには一定の相関関係があると思います。
「良い結果を得るために、その結果を出すためのプロセスを大切にする」という正しい結果主義を念頭に、制度と運用を考えていただくと良いと思います。
■個人よりチーム重視
もう一つ、業績が上がっている会社の評価制度の傾向としていえるのは、個人評価よりチーム評価を重視しているというところです。定量的な目標はチーム単位にとどめ、個人はチーム目標を達成するための取り組みや役割が問われます。個人の手柄にこだわり過ぎることは合理的でないと考え、個人へのインセンティブをあまり強調しない仕組みを取っています。
もちろん突出した個人が活躍することもあるでしょうし、個人の結果の積み上げこそが会社全体の業績という面はありますが、会社、部門といった何人もの人が関わるチームで動く中では、それぞれの役割は異なりますし、複数の人が関わる事によるお互いの補完関係やシナジー効果があります。単純に1+1=2ではなく、個人単位までの明確な切り分けは難しいものです。
これは、結果主義と言われるスポーツの世界であっても同じで、ホームラン王と首位打者のどちらがどの程度優れているとは誰も答えられないでしょうし、サッカーのような競技であれば、流動的な動きの中でなおさら数字に表れない要素が多く、誰がどれだけ貢献したかを一概に定量的に表現することは難しいでしょう。
ある観点や基準で割り切って評価を決めることはできるでしょうが、誰もが同じように納得できるわけではなく、やはり不条理な部分、感情のしこりが残ります。
個人評価とチーム評価のバランスが、評価制度の重要なポイントであること、業態による差はあっても、どちらかといえばチーム評価を重視する方が全体の業績につながっていることを意識した上で、制度設計に取り組んでいただくと良いと思います。
次回は、給与制度についての解説を進めていこうと思います。