オーストラリアのKUMON教室
2013年5月8日 19:50
1955 年に大阪で始まった公文教室は、1974年に初の海外進出、駐在員の子供たちを対象にニューヨークで開校した。子供たちの日本語を維持するための数少ない 方法であった。ユニークな学習法が口コミで広まり、英語での教材を開発、アメリカ人の子供たちも通うようになった。オーストラリアでは1984年に事業を開始、1995年に進出したニュージーランドを含め、370教室以上を展開している。
日本の公文教室とオーストラリアのKUMONの違いだが、こちらのKUMONは「数学」「英語」「日本語」「国語」の四教科である。「数学」と「英語」はおなじみだが、英語が母語で、日本語を学びたい子供のためのコースが「日本語」、日本語を維持上達させたい日本語が母語の子供のためのコースが「国語」である。子供の放課後の勉強にまで予算を割く家庭はオーストラリアでは少なかったのだが、オーストラリアは移民の国、子供に上手に英語を教えることに不安がある移民の家庭を中心にKUMONの需要がある。移民コミュニティーの間でKUMONの効果が口コミで広まり、問い合わせに来るアジア系のお母様も多い。もちろん、移民の子供でなくとも、数学や英語を伸ばしたい子供ならだれでも、KUMONは有効な勉強法になりうる。
日本から親と一緒にオーストラリアに移ってきた子供が「英語」コースを取るのは理解できるが、日本の学校で算数が得意だった子供でも、こちらのKUMONで「数学」 コースを取ることがある。現地の学校の算数がやさしく思えても、英語で設問されているので、算数で使う英語に慣れる必要があるのである。最初にもらって取りかかる算数のシートがあまりに簡単で、「うちの子が何でこんな簡単な計算から始めるの?」と、一部の親御さんは不安になるようだが、基礎が重要、「大器晩成」の格言もある。シートをまじめにこなしていると、学校の授業に追いつき、追い越すことになる。追い越してからは大変になってくる。内容が高度になる上、学校の授業で説明を聞いていない内容の問題を解くのだから当然であろう。何度も壁にぶつかり、いったん後退、再挑戦、再々挑戦を繰り返して徐々にレベルを上げることになる。
「日本語」コースをとる生徒は「数学」「英語」ほど多くない。中国語の重要性が増してきており、オーストラリアの学校すべてで中国語を教えるべきだとの主張も聞かれる。もっとも、英語、中国語、日本語と、この組み合わせでなくてもよいのだが、三ヶ国語を話せば、職探しでまず苦労しない。引く手あまたである。
「国語」コースのほうも、生徒数は他教科よりは少ない。片親が日本人の家庭だけでなく、両親共に日本人の家庭でも、日本の大学よりもオーストラリアや米国の大学に行かせたいとの希望が増えてきている。大学入学には高校の成績が重要なので、時には家庭教師をつけるなどして、英語で教科を理解し、宿題をすべてこなし、 好成績を取らなければならない。日本語能力の維持まではなかなか手が回らないのが実情である。さらには、帰国予定子女が日本で困らないよう、日本の教科書で授業をしてくれる日本人学校や補習校が主要都市には存在する。
KUMONの英語のパンフレットには、創業者公文公(くもん・とおる)氏の写真の共に、「やってみよう やってみなければ わからない」の合言葉が載せられている。子供すべての才能を引き出し、人類の発展に貢献してもらおうとの熱意が示されている。日本語と英語のKUMON公式ウェブサイトを比較すると、知性、人間性、創造性の高い目標がうたわれ、ただし、理念の説明として、日本語のサイトには「進化」という言葉が二回使われ、英語サイトには用いられていない。「進化」が「共通の認識」でない地域への土着化の表れであろう。確かに、古代エジプトのピラミッドなど考えると、親や先祖を超えるのは実のところ難しく、われわれは彼らの背中を追いかけているのではないだろうか。
KUMONと学校教育を比較すると、学校は集団教育なので、アヒルが群れで歩くイメージ、ウマのように速い生徒や、カメのようにゆっくり進む生徒のニーズには対応が難しい。この点、ゆっくりな生徒が群れに追いつくことができ、頑張れば先を走ることさえ可能なKUMONは大変有用なシステムだ。確かに、一教科か二教科を先取りすれば、他の教科にもっと時間を割く余裕が生じる。スポーツや他の活動への時間も増やせるかもしれない。もっとも、3学年も4学年も上の内容を先取りしても、ウサギの寓話のようにそこで止まってしまう可能性はある。KUMONであまりに先取りするよりも、学校のカリキュラムに入っていない活動に授業料を払う選択もあるようだ。
オーストラリアでも光ファイバーの敷設が本格化し、自宅のインターネットで自習、親子学習するのを支援するソフトウェアも増えてきた。インターネットには無論のこと国境は存在せず、米国や英国その他で開発された教材も選べるから、英語の教材は種類が多く、選択肢が多い。グローバルな競争を見据えて、現在47カ国で事業展開しているKUMONにも、さらなる飛躍を期待したい。(編集担当:耶岳和也)