【小倉正男の経済羅針盤】アベノミクスと景気循環プロセス

2013年4月24日 09:59

<アベノミクスは、実体景気にどのような影響をもたらしているだろうか>

  百貨店では、高級ブランド品など高額な商品から売れていく現象が見られるといった報道がされている。

  それは悪いことではない。ただ、実体景気というか、例えば中堅中小企業などには果たして好影響が及んでいるのだろうか。

  協栄ホーニング(本社・豊田市)は、ホーニングパイプ、スライドシャフト、スライドパイプ、アルミローラーなどの加工メーカー。それらの工業製品を一本からの発注に応じる中堅企業だ。

  大手の下請けで汎用品を大量生産するのではなく、あくまで手づくりで一本からの加工生産・販売を行っている。操業度ではなく、付加価値で勝負する企業である。

  「アベノミクスの影響は、ウチのようなメーカーには、残念ながらまだ及んできてない。1月~3月は昨年と同じぐらいか、むしろやや良くないぐらいの感触だ」

  同社の渡辺益良会長は、そんな感想を漏らしている。

■株式の回復が消費に好影響

  だが、渡辺益良会長は、その一方でアベノミクスの効果について、こう語っている。

  「会社の資金を証券会社に預けて運用していたものが確実に好転している。期待もせずに以前から預けていたのだが良くなっている。世間では、いまから株式セミナーに行って勉強して株を買う人たちをTVなどで伝えている。だが、それは少し遅いのじゃないかね」

  確かに、異次元の金融緩和による円安効果も加わり、株式は回復・高騰を加速した。この好影響は中堅企業にも及んでいる。

  他の中堅企業経営者に聞いても大なり小なり同じような効果が出ている。

  会社が催す花見の宴会弁当が高級なものになった。社員旅行が一泊だったのが二泊になったetc――。

  アベノミクスは、ほとんど死んでいた株式を右肩上がりにした。株式の高騰は、消費にプラスの影響を与えている。

■設備投資、残業・賃金の増加を実現するか

  消費の好転が、設備投資やさらに残業増、そして賃金やボーナスの向上につながるのか。それが次に試される景気循環のプロセスになる。

  大昔の高度成長期は、景気は設備投資→残業・賃金ボーナスの増加→消費というのが景気循環の流れだった。どちらかというと、発展途上国型の景気循環にほかならない。

  だから昔のエコノミストは、設備投資ばかりをマークしていた。消費まで及べば景気は終わり――。消費は「不妊」、何も生まない、とまでいわれたものだ。

  いまの景気は円安株高による消費が景気の先行指標になる。

  焦点は、消費が設備投資、そして残業・賃金ボーナスの増加をもたらすのかである。つまり、消費が景気循環を新たに生み出せるか。

  これは成熟した経済、いわば先進国型の経済循環になる。

  アベノミクスには、実験的な経済政策の面がある。

  仮に景気循環を生み出せなければ、“こけおどし”の経済効果にとどまる。「やはり、ダメだったか――」。

  アベノミクスは、景気を起こせなかった。ニセモノの経済政策だった、ということになる。

  しかし、アベノミクスが反対にダイナミックな景気循環を生み出せれば、これは画期的な経済政策であると評価が一変するに違いない。

  このあたりは下手な予見を持たず、しばし実証的に見ていくべきではないか、と私は思っている。

(経済ジャーナリスト&評論家・小倉正男=東洋経済新報社・金融証券部長、企業情報部長などを経て現職。『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』(PHP研究所刊)など著書多数)(情報提供:日本インタビュ新聞社=Media-IR)

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