日本の電子書籍はアップルの本格参入で変わるのか
2013年4月18日 08:27
米アップルが3月6日に電子書籍サービス「iBookstore(アイブックストア)」において、日本語書籍の販売を開始してから一月余り。もともと「iBookstore」は存在したものの、日本のユーザーには敷居の高いものであった。今回、日本語書籍の販売開始に合わせて、講談社や角川書店、文藝春秋、学研、幻冬舎、光文社、アスキーメディアワークスなど多くの日本の大手出版社と連携し、新刊本を含む小説や漫画などを数万点ラインナップしている。「キンドル」シリーズを展開する米Amazon.comは8万8000点以上、「コボ」シリーズの楽天は12万4400点以上と、日本語コンテンツの数では多少は見劣りするものの、数ではなく質の高いものを提供することでユーザーを獲得する狙いだという。
「iPad(アイパッド)」や「iPhone(アイフォーン)」などのタブレット端末のシェアで優位に立つアップルが本格的に市場に参入してきたことで、日本の電子書籍業界もいよいよ、生き残りをかけて激しいシェア争いが始まりそうだ。
とはいえ、ソニー<6758>やKoboも苦戦しているように、日本の電子書籍市場での成功は厳しいものがあると言わざるを得ない。日本が電子書籍後進国といわれている理由はいくつか考えられるが、まず大きな原因としては、海外諸国に比べて、圧倒的に書店が多いことが挙げられるだろう。どんな小さな町にも本屋の一つや二つはある。イオンモールなどの商業施設の中にも書店はあるし、コンビニエンスストアに行けばコミックや雑誌が簡単に手に入る。また、購入しなくても、地域の図書館も充実している。要するに便利なのだ。わざわざ車に乗らなくても、歩いていける範囲に書店があるのが日本の環境。「本に困る」ということがない。
確かに、紙の書籍はかさばる上に重い。その点、電子書籍ならタブレット一台の重さで済む。約600g程度の重さの中に、数冊どころか数万点にものぼる書籍を持ち歩くことが出来るのは大きな魅力ではあるし、合理的だ。しかし、それが電子書籍への購買意欲を掻き立てるかといえばそういうわけでもない。そもそも読書好きの日本人は、本の重さそれ自体を愛している節もある。そうでなければ、ハードカバーの本など売らずに、最初からすべての本を文庫本で販売すればいいのだ。インクの匂い、紙の感触。画面をタップするのではなく、一枚一枚ページをめくるあの感覚。日本人のコアな読書層は、それら全てを含めて読書という時間を楽しんでいる人が多いのではないだろうか。
「コンテンツの数が多い」「紙に比べて軽い」「何万冊も持ち歩ける」といったような便利さだけで、紙の書籍と同じ内容のものを出版しているようでは、日本の読者には訴求力にかけるのだろう。
今回、アップルは「電子書籍ならでは」の取り組みを増やすという。例えば、iBookstoreでは日本語書籍の配信開始に合わせて、村上龍オリジナルデジタルブック3冊の限定配信をスタートしているが、単純に元の書籍を電子化したもののではなく、電子書籍に向いたフォーマットで作り直されている。ケータイメールが登場するシーンでは、それに合わせて実際の携帯電話でメールを読んでいるような体裁にデザインされていたり、読者を楽しませる工夫がなされている。また、児童書には、絵をタップするとアニメが動いたり、日本語と英語の音声が流れる仕掛けがあったりと、「紙には真似のできない」面白さがあるのだ。
とはいえ、このようなインタラクティブ性を備えたコンテンツは現在のところ実験的な取り組みでしかないのが現状だ。アップルといえど、すべての電子書籍にこのような仕掛けが施されているわけではない。しかし、日本の読書環境の中で電子書籍市場を盛り上げて生き残るには「文字の電子化」だけではない、こういった「電子書籍ならでは」の楽しみ方の提案が必要なのではないだろうか。(編集担当:藤原伊織)