本に載らない現場のノウハウ-中小企業の人事制度の作り方:第11回 評価制度の検討(4)
2013年3月7日 12:39
今回も引き続き、「評価制度」を検討する上での留意事項を説明していきます。
■絶対評価と相対評価の話
多くの方はすでにご存じと思いますが、人事評価の方法として「絶対評価」と「相対評価」があります。
「絶対評価」とは、評価基準に照らして評語や評価点を決定する方式を言い、「相対評価」とは、評価成績順位に対して、例えば最高のS評価は○%など、評語や評価点ごとの分布率を示して、評価結果を決める方式をいいます。
最近では「絶対評価」の方式を取ることがほとんどで、一般的にはそれが定着しているように見えますが、評価制度を検討する中では、必ずどこかで「絶対評価か相対評価か」という議論が今でも出てきます。特に中小企業の場合、主に経営層から「結局は順番を決めるんだから、相対評価と同じ事だろ!」など言われます。
これについて私は、“ある面では合っているけど、ある面では間違っている”と思っています。
“合っている”という面でいえば、例えば評価の目的を「給与を決めるため」と考えるならば、給与原資という限られたパイの配分を決めることなので、相対評価といえるかもしれません。評価の序列を決めるだけなら、これも相対評価ということで構わないでしょう。
一方、“間違っている”という面でいえば、相対評価というと、だいたいにおいて標準評価を中心とした正規分布をイメージしますが、それは社員の半分がマイナス評価になるということです。上司だって「君なりには良く頑張ったけど、相対評価だから仕方ないね」と説明するしかありません。これではやる気を保つことは難しいでしょうし、社員の半数がやる気を失い気味の組織では、業績向上などは望むべくもありません。
また、「相対評価」の中で、自分の評価を上げようとすると、他の誰かと順位の逆転が起こらなければなりません。なおかつ決められた分布率もクリアしなければ評語や評価点は上がりません。自分の努力だけではどうしようもない要素が、あまりにも多くなります。身内の誰かを蹴落とさなければならないということで、組織力やチームワークという面でも良いことではありません。
■絶対評価と相対評価の話
そもそも評語や評価点ごとの分布率など、初めから決めてしまうには相応の根拠が乏しいですし、正規分布という設定ではなおさら不自然です。よく「2・6・2の法則」(組織で上位2割は高生産性の優秀なグループに、中位6割が平均的なグループに、下位2割が生産性の低い行動しないグループに、必ず分かれてしまうという法則)などといいますが、これだって少なくとも8割近い人は「普通程度以上に成果を出している」という計算になります。
「相対評価」という話が出てくる背景には、実際の評価結果と会社業績の連動を意識していることが多いです。「絶対評価」と言いながら、実際にはなぁなぁの関係での甘い評価になり、そんな「評価のインフレ」が、特に人件費の面などで経営上の悪影響になることを懸念しています。
もちろん、実際の評価結果と会社業績がかい離してしまうというのは、それはそれで大きな問題ですが、逆に100%整合するという事もありません。首位打者を取る選手がいたけど、チームは最下位、観客動員は伸び悩んで収益が悪いとなれば、チーム内の評価としては最高でも、実際の報酬はそれほど出せないということになるでしょう。ただ、こういうことは給与原資を配分する段階で考えればよいことで、評価結果そのものを相対化する必要はないはずです。
ということで、評価制度としては、「絶対評価」という形で打ち出していくことをお勧めします。
人件費のコントロールは賃金制度の中で十分できますし、「評価のインフレ」のような問題は、運用面の課題として取り組んでいくべきです。
何よりも、「自分の努力だけでは評価は上がらない」という意識を与えてしまうことでの悪影響の方が大きいと思います。
■加点主義と減点主義について
もう一つ、同じような論点で「加点主義」と「減点主義」という話があります。
「加点主義」はプラス面を見つけて加点していくやり方、「減点主義」はマイナス面や不足部分を指摘して減点していくやり方です。
単純に考えれば、「加点主義が良いに決まっている!」となるのでしょうが、実際にこれを評価制度の中で実行できているところは、非常に少ないのではないかと思います。
■加点主義と減点主義について
一般的な評価制度では、標準的な期待水準を設定し、それを上回ればプラス評価、足りなければマイナス評価という形を取ることが多いと思います。例えば5段階評価(S・A・B・C・Dなど)であれば、まん中(B評価)を標準と設定することが多いはずです。
この場合、評価者が厳格であったり、俗にいう「できる上司」だったりすると、この標準の期待水準を「できて当たり前」と捉え、減点対象が増えてマイナス評価の傾向が強くなります。仕事内容として、比較的定型業務が多い、ミスが許されないという傾向が強いような場合も、同じように減点主義、マイナス評価になりがちです。期待水準の記述内容で回避できる部分もありますが、以前にも述べた通り、何でも細かく書くことの弊害もありますし、それだけで万全にはなりません。
また人事考課の現場では、例えば本人に自己評価などをさせている場合、その結果というのは、だいたいにおいて上司の思っているものよりは甘くなりがちです。本人がアピールと思ってわざわざ高めの点数をつけて来ることもあります。
いくら「褒めて育てる」などといっても、人事考課で甘い採点をそのまま見過ごすことはできません。上司はやむを得ずマイナス面や不足部分を指摘して点数を直していくことになりますが、このプロセス自体は完全な減点主義です。意図していないにもかかわらず、実際の運用は「減点主義」的な方向に傾きがちになります。
「加点主義」の意識をうまく打ち出していくことができれば、社員のモチベーションアップにもつながりますが、このように実際の運用では「減点主義」になりがちです。まずは評価者の心構え、スキルが大事になりますが、「減点主義」と感じさせないような、制度上の工夫も必要と思います。
基本的には各社の事情に応じて考えて頂くとして、ここではいくつかの例を挙げておきます。
○標準評価をまん中ではなく下にシフトする
一般的な評価制度では、5段階評価(S・A・B・C・Dなど)であれば、まん中(B評価)を標準と設定することが多いですが、この標準をC評価、D評価など下へシフトすると、標準以上の段階が増えるので、「標準(期待水準)をどのくらい上回ったか」、という加点の程度を考えるように、評価者の思考が変化します。加点の程度を考えるという事は「その人のプラス要素は何があるか」を探すようになるという事で、加点主義のイメージを強めることにつながります。
絶対評価という前提であれば、実際の評価の中で標準以下と評価される比率はそれほど多くなく、まん中(B評価)を標準と設定されていて、最低のD評価までつく人はほとんどいないのが実態ではないでしょうか。実際にそこまで能力も成果も足りないような人材は、組織内にはめったに存在するものではないという事が一つ、マイナスの程度をランク付けすることにそれほど意味がないことがもう一つです。こんな点からも、試してみる価値がある方法だろうと思います。
○加点のみの特別の評価項目を設ける
特に中小企業であれば、すべての会社業務に選任者や担当者を置く体制を取るのは難しいため、直接の担当業務ではない有志の活動とされているが、ほぼ会社業務と同等で取り組まなければならないような内容の活動があることが多いと思います。その他、広い意味での会社業績につながるような課外活動や委員会活動、できればやった方が良いという取り組み、失敗を恐れる必要がないチャレンジングな目標などという物もあるでしょう。
こういうものを評価対象として、別枠の評価項目を設けるという方法があります。もともと減点する要素がない活動ですし、こういう部分の評価にも着目することで、加点主義のイメージを強めることには役立つと思います。
○目標管理制度を活用する
目標管理制度は、自己管理目標、重点目標を設定して、その達成度を見るものなので、本来であればノルマ目標ということはありえないし、達成できなかったからといってマイナス評価されるものでもありません。難しい目標にチャレンジすることを良しとする面もあります。
この目標管理制度の本来の姿を意識しつつ仕組みを考えることで、加点主義のイメージを打ち出すことはできると思います。
具体的には、多少の目標未達があっても、より難しい目標にチャレンジした方が、ほどほどの目標を達成した人より得をするような評価点数、加点する要素としてのみ扱うような仕組みとすることなどが考えられます。もちろん目標のノルマ感を与えないなどの運用面と、評価制度全体の中での目標管理制度の位置づけも考える必要があると思います。
次回も引き続き、評価制度に関する留意事項をご説明していきます。