本に載らない現場のノウハウ-中小企業の人事制度の作り方:第10回 評価制度の検討(3)
2013年2月4日 12:44
今回も引き続き、「評価制度」を検討する上での留意事項を説明していきます。
■評価項目に何を取り上げるか-これまでの世の中の流れ
一般的な評価制度で使われる評価項目を大きく分けると、
●個人が保有している能力、スキル、その習熟度といったものを対象にする「能力項目」
●仕事に向かう態度、頑張り、姿勢、意欲といったものを対象にする「情意項目」
●仕事の質、仕事の量、目標達成度、その他仕事の成果そのものを対象にする「業績項目」
の3つに分類されます。
俗に成果主義といわれるのは、上記の「業績項目」を中心、もしくはそれのみで評価しようとする方法であり、能力(職能)主義といえば、上記の「能力項目」を中心に評価しようとする方法です。
評価制度を取り巻くこれまでの流れとして、「能力項目」「情意項目」では、どうしても数値で評価しきれないあいまいな部分が避けられませんが、このあいまいさが好ましくないという前提から、「業績項目」を主体で評価する成果主義の流れがあり、成果主義によって短期的な結果ばかりに意識が偏ったり、地道な仕事やプロセスに注目しない傾向が強まったりして、個人のやる気や組織の活力が失われていく様々な弊害が出てきたために、あらためて「能力項目」「情意項目」といったあいまいな部分を見直す揺り戻しがあり、そのバランスを試行錯誤しながらの今ということになります。
■会社の事情で異なる評価項目の設定とその留意点
このような過去の流れから見れば、評価項目を設定するにあたっては、「能力項目」「情意項目」「業績項目」の各要素をバランスよく取り上げるという事が重要になってきます。
ただ、どんなバランスが望ましいのか、実際に何を評価項目として取り上げるかということは、それぞれの会社の事情によって、また対象となる人の仕事内容や立場、経験、レベルによっても異なります。
自社なりの事情を考慮して、自社なりに検討することがベースになりますが、私がこれまで手掛けてきた実務上の経験の中で、留意しておくと良いと思われる事項を以下に挙げておきたいと思います。
●「能力項目」「情意項目」の扱い方
前述の通り、「能力項目」「情意項目」を取り入れると、どうしても数値では評価しきれないあいまいな部分が避けられませんが、だからといってこれらをすべて排除するのは、後で様々な弊害が現れます。
「業績項目」のような数値による評価は一見公正で合理的に見えますが、逆にいえば数値さえ達成すれば評価が上がる訳ですから、どうしてもそればかりが優先されるようになってきます。
「人材育成や指導・教育といった数字に表れないことはやらない」「難しそうなテーマには手を出さない」「達成しやすい難易度の目標設定で上司を丸め込む」「能力が高い人材を抱え込む」など、残念ながら会社の総合力向上、全体の業績向上を目指した取り組みにはならないことが往々にしてあります。
「中長期の取り組みも行わなければ数字は上げられないはず」「そんなことは上司がきちんと管理してやらせるべきだ」などという声も聞きますし、正論であるとも思いますが、数字など目に見える結果が同じ場合、その中身が中長期的な事も考えた結果なのか否かは、相当細かく観察しなければなかなか判別できません。
また、評価項目において「結果がすべて」であったならば、それに直接結びつかない取り組みにも目を向けさせ、実行させることはなかなか難しいものです。結果を出している者は発言力も強まり、そこに物申すことができづらくなり、その結果、会社の全体最適を阻害していくことになってしまいます。
こんな点を踏まえると、基本的には「業績項目」のように客観性のある評価項目を中心としつつ、「能力項目」「情意項目」といった数値化しづらい要素を考慮する項目も合わせて設定するようなバランスが望ましいと思います。
「能力項目」「情意項目」は、ここにあまり重きをおくと、評価者の主観に左右される部分が増えてくるので、今度は評価への納得感が失われがちになる懸念があります。
特に「情意項目」はその要素が強く、仕事の成果とのつながりが必ずしも強くないと見られることもあって、近年はこのウエイトを軽くしたり、これ自体を取り入れなかったりという傾向になっています。
もし取り入れるのであれば、例えば自社でいう「積極性」とは具体的にどんな行動を指しているのかというようなある程度の定義を決めて、客観性を増す努力をしておく必要があるでしょう。このあたりは「能力項目」でも同じことがいえますので、配慮しておく必要があるでしょう。
●プロセスを見ることの重要性
数値化しづらい要素ということでは前に述べた点と共通しますが、人間の心情として、「他人から認められたい」という気持ちは誰もが持っています。良い結果が出ていればその結果で認められたいし、結果が出ていなくても取り組んだプロセスや取り組み姿勢、がんばりといった部分を認めて欲しいものです。評価するという事には、過去を振り返るとともに、将来の目標に向けた動機づけという要素もあります。
上の立場になるほど結果を問われることは当然として、若手社員や育成段階の者については、仕事のプロセスにもしっかり注目して評価するという事が、本人のやる気や向上心を促すためにも必要であろうと思います。これを評価項目の上でもはっきり示しておくことが望ましいでしょう。
●企業理念、重視している価値観、重点事項とのリンク
どんな会社でも、それぞれ大切にしている理念や価値観があるはずです。経営理念として明確に示されているものもあるでしょうし、社風として歴史の中で育まれてきたこともあるでしょう。それが「顧客第一」ならば評価項目にも顧客サービスに関わるものがあるべきですし、「技術力」なら技術スキルに関わる評価項目、「社会貢献」ならそれに関わる評価項目があってしかるべきです。
これはある有名企業でのお話ですが、成果主義を強めたことによって、みんなが目先の数字ばかりを追うようになり、それまで重視していた人材育成がおろそかになってしまったそうで、その状況を改善するために、特に課長クラスの評価項目に「人材育成」に関するものを追加したそうです。
あらためて「人材育成」への取り組みを促す会社からのメッセージともいえますが、この例のように、会社として重視している行動、能力、取り組み事項といったものは、評価項目ともリンクさせることを意識しておくと良いと思います。
●個人的な主観に振り回されない項目設定と定義
最後に、これは中小企業特有かもしれませんが、組織の規模が小さい場合、特に経営者や役員クラスなど、上位者の個人的な主観が評価項目に強く反映されてしまう場合があります。典型的なものでは「朝早くから来て頑張っている」「いつも定時退社で仕事をしていない」「休日出勤も嫌がらずにこなしているから良い」というようなものです。
朝早いからといって頑張っているとは限らないし、定時退社だから仕事をしていない訳ではないし、休日出勤は好ましいことばかりではないはずですが、「責任感」や「積極性」といったあいまいさを含む評価項目の言葉を自分の解釈で捉え、自分自身の職業観や働き方に対する思い込み(偏見?)に基づいて評価しようとします。
これを避けるには、やはり該当する評価項目に対して、ある程度具体的な定義を事前に定めておくということになります。この定義も細かく決めすぎると実態に合いづらくなり、大ざっぱすぎると意味が無くなってしまいます。
自社に起こりがちな主観というのはある程度想定できるはずなので、それに基づいて定義を決めていくことが良いと思います。その後運用する中で、どうしても実態にそぐわない点が出てくることはありますので、多少の試行錯誤をする覚悟は必要であろうと思います。
次回も引き続き、評価制度を検討する上での留意事項をご説明していきます。