本に載らない現場のノウハウ-中小企業の人事制度の作り方:第9回 評価制度の検討(2)
2013年1月7日 13:17
今回も「評価制度」を検討していく上で、こんな方法を取るとこんな効果は考えられるがこんな反応になることもあるというような留意事項を、私が経験してきた事例の中から参考になりそうなものでご説明していきたいと思います。
■評価項目の数、評価ランク(段階)の数をどうするか
一般的な評価制度では、あらかじめ設定された評価項目を所定の評価ランク(一般的に多いのは5段階評価)で評価して、それらを総合したものを評価結果として扱うことが多いと思います。
制度設計する上では、評価項目をいくつくらい設けるか、それをどんな方法(何段階評価?)で評価するのかは、必ず決めなければならないことです。
評価項目数を多くすればいろいろな事項を細かく網羅できますが、評価項目の内容と実際の仕事内容との間での不整合が起こりやすくなるので、それらを常にチェックする必要があります。また評価者にとっては、評価項目が多ければやはり評価を実施する上での作業負荷は高まります。
評価ランク(段階)の数についても、「5段階では足りない。7段階だ。」「真ん中を作らないように4段階だ」「チェックシート方式だ」「点数制だ」など、考え方は様々です。ちなみにチェックシート方式はできたかできなかったか、イエスかノーかの2段階評価、100点満点の点数制であれば100段階評価ということになりますので、すべての方法が評価ランクによる評価として捉えることができます。
一般的に言えば、数が多ければ幅を表現できるがあいまいな点が増え、少なくなれば白黒はっきりしてくるが、程度や度合を表現できず、数で捉えられない要素を評価しづらいということになります。
まず評価項目数に関しては、制度を真面目に考え、基準を統一しよう、きちんと運用させようという意識が強いほど、数が増える傾向になります。そうなると当然評価する作業自体は大変になるので、一つ一つの項目を細かく見ることをしなくなり、結果としてだいたいみんな普通くらいという中心化傾向や、何でも前と同じというような形骸化の傾向が出てきます。
こんなことを解決するために一層の細かい基準作りを始めたりしますが、さらに運用負荷を高める形になり、評価制度を運用する上の問題解決にはなかなかつながりません。
評価ランクの数は、この中心化傾向や形骸化の対策として出て来ることがあります。
「“みんな普通”にはできないように4段階評価にしよう」「チェックシート方式でできたかできないかをはっきりさせよう」「普通と評価しているところをさらに3分割して7段階評価にしよう」などというやり方です。
しかし、こういうやり方をとったとしても、中心化や形骸化が起こってしまう本質的な所は変わっていないので、今度は出て来る評価結果が実態にそぐわなくなっていってしまいます。
これは評価プロセスや評価結果の中で起こってくる課題を、制度や仕組みなどの小手先の改訂で解決しようとしても、なかなか思った通りの動きにはならないということです。私がずっと申し上げてきている「制度で決める部分」と「運用に委ねる部分」のバランスの取り方に通じるところです。
私が制度設計をお手伝いする場合、それぞれの会社の状況を議論しながら形を作っていきますが、その議論の結果、評価項目数では10項目前後(7,8~12,13項目くらいまで)、評価ランク数では5段階というような、ごくありふれた構成での設計となることがほとんどです。これにはそれなりの理由があると考えています。
評価制度の本質を理解してもらいながら、評価するということに熟練していってもらった方が評価制度の運用はうまくいくと考えると、オーソドックスな構成の方が理解しやすいですし、いろいろな検討や試行錯誤をした結果、オーソドックスといわれるところに行き着くことが多いということも言えます。
もちろん、その会社の状況によって制度は異なりますが、オーソドックスとは言えない特徴的な評価制度になるのは、どちらかというと業界特有の事情や、企業風土や業務上の特殊事情であったり、あくまで本質的な変化を目指すための一時的なものであったりということが多いようです。
特に中小企業の場合は、評価者の評価スキルや作業負荷の状況を考えると、理解しづらい複雑な制度や手間のかかりすぎる運用方法、中でも多すぎる評価項目と複雑な点数化や評価ランクづけを行うような制度は避けておいた方が良いと思います。
■評価者を誰にするのか
評価制度では、「何を評価するのか」という評価項目とともに、「誰が誰を評価するのか」という評価者と被評価者の関係は重要なところです。一次評価、二次評価という形で評価者を複数にしたり、部下評価や360度評価など、上司からの一方的な評価にならないような配慮をした制度もあります。
それぞれのやり方には一長一短がありますので、自社の状況に合わせて検討して頂きたいと思いますが、私が経験してきた中では以下のような事例がありますので、参考にして頂ければと思います。
○一次、二次など評価回数を多くしても、一次評価の結果は重い。
評価者個人による評価の偏りを防ぎ、全体を見た上での調整を行うために、一次評価、二次評価という形で何段階かの評価を行う制度にする場合は多いと思います。
ただ実際の運用の中では、比較的現場に近い一次評価者が行った評価、本人と直接面談しながら行ったような一次評価の結果を、本人と直接接触する機会が少ない二次評価以降の評価者が大きく調整するというのは実際には非常に行いづらく、一次評価の結果が重くなることが多いと思います。
評価制度をうまく運用するには、結局は一次評価者の評価スキルが非常に重要だということは理解しておく必要があるでしょう。
また、評価調整というのは、どちらかというと突出した評価を抑えて差を縮める方向になりがちなので、やればやるほど中心化傾向を助長してしまいがちであることと、もしも大きく調整を行うとすると、今度は本人への評価結果のフィードバック難しくなるという面を理解しておく必要があります。
フィードバックなどはあえて積極的には行わないという会社もありますが、本人の納得性や今後の育成などを考えると、何が良くて何が足りなかったかというフィードバックはしっかり行うべきで、そのための運用方法はしっかり考えておく必要があるでしょう。
○部下評価や360度評価などは、必ずしも公正な評価にはつながらないことがある。
上司からの評価だけでなく、いろいろな立場の人から評価されることを通じて一方的な評価や不公正な評価を防ごうということで、部下からの評価や360度評価を導入することがあります。運用次第では十分に意義がある仕組みではありますが、この際に注意すべきなのは、評価者が若手や一般社員ということで、人を評価することに慣れていない場合が多くなるということです。
特に部下が上司を評価するというのは、感情や人間関係に左右されたり、ある視点に偏ったりしがちです。また一方的に攻撃したり、逆にその後の関係維持のために遠慮していたりということが起こる懸念もあり、実施する上ではそれなりの環境作りも必要になってきます。評価結果のウエイトが大きい場合などは、逆に不公正を助長しかねないケースもあります。
私がこのような仕組みを導入する際は、評価結果をどこかに反映するというよりは、双方のコミュニケーション材料として使う目的で実施することがほとんどです。
導入するにあたっては、「一方的な評価や不公正な評価を防ぐ」という目的に合致するように、活用方法には十分留意するようにして下さい。
○被評価者(部下・メンバー)が少ない評価者(リーダー・マネージャー)は評価が偏りやすい。
特に一次評価者は、少人数グループや少人数プロジェクトのリーダーが評価者になることがありますが、この場合どうしても評価の偏りが大きくなる傾向があります。評価するにあたって比較対象が少ない中で評価しなければならないという点と、評価者であるリーダーと被評価者であるメンバーの関係が近いので、お互いを理解しているがゆえに厳しい評価がしづらい、逆に知っているがゆえに厳しくなるという両面があります。
これは制度上でどうこうするというよりは、事前に評価の観点合わせをする、他の評価者とともに評価を行うなど、運用上の配慮をすることが必要であろうと思います。
次回も引き続き、評価制度を検討する上での留意事項をご説明していこうと思います。