LCCの登場が鉄道業界の未来も変える?

2012年12月17日 11:00

 格安航空会社(LCC)の登場により、日本の空ばかりでなく、鉄道の未来も大きく変えるかもしれない。

 ライフネット生命保険が2012年に行なった調査によると、運賃が同程度と仮定した場合、LCCと新幹線どちらを利用したいかという質問に対し、東京~大阪間程度の中距離旅行では、LCCと答えた人が17.5%だったのに対し、東京~福岡間のような遠距離旅行においては59.7%と、LCCを希望する人が新幹線を上回った。

 しかも同調査によると、「格安」という言葉から低所得者層からの支持が多いと思われがちなLCCだが、意外なことに、高所得者の方がより高い関心を寄せているという大変興味深い調査結果が出ている。調査結果で「LCCに関心がある」と回答した割合を年収別にみてみると、「300万円未満」が34.9%、「300から500万円未満」42.4%、「500から1,000万円未満」で47.4%、「1,000万円以上」になると、なんと67.1%と、高所得者層になればなるほど、関心が高いというのだ。

 もちろん、この調査の結果だけですべてを判断できるものではないが、少なくとも「LCCは「学生向け」や「貧乏旅行」といった日本人の既成概念だけで軽率にレッテルを貼るべきものではないと考えられる。国際線はともかく、国内線のLCCの対抗相手は、同業である既存の航空会社だけではない。陸路と海路、中でも中長距離の利用者の多い新幹線はもっとも強力なライバルである。そう考えると、主体となるターゲットが「学生」や「貧乏旅行」とは異なるのだ。

 では、その最大のライバルともいえる新幹線とLCCでは、どちらが利用者にとってより良い交通手段と考えられるのだろうか。これに関しては、現状では利用者自身の好みといわざるをえない。

 LCCに限らず、航空機利用の最大の魅力は「移動時間の短さ」だろう。長距離になればなるほど、そのメリットは大きい。空港までの交通が多少不便であっても、トータルの移動時間を考えると、利用価値は充分だといえる。

 一方、鉄道利用のメリットは、何といっても「時間の正確さ」だ。日本の鉄道は世界でも驚嘆されるほど、ダイヤに忠実である。よほどのことがない限り、大きな遅延や、空路のように欠航することはない。そもそも、悪天候で鉄道が止まるような時は、飛行機だって飛べないだろう。その点、保有機体の少ないLCCは空路のなかでもとくに、安定的な運行という面では常に不安がつきまとう。プライベートはともかく、ビジネスでの利用には二の足を踏む人も多い。

 LCCというと、一般的には「低価格だからサービスが悪い」のような印象を持たれがちだが、実はそうではなく、価格をはじめとする「手軽さ」を打ち出すことで、航空機利用の不安要素やデメリットを補填しているとも考えられる。そして、最大のメリットである「移動時間の短さ」に特化する為に、不必要なサービスを選択性にしているのだ。

 ところが、新幹線はまったく逆の路線を歩もうとしている傾向が見え隠れする。その代表的な例が、2011年3月に、東北新幹線東京~新青森間でデビューした「はやぶさ」の「GranClass(グランクラス)」。これはグリーン車のさらに上のクラスで、いわば新幹線版ファーストクラスともいえるものだ。

 高級志向の新幹線と、手軽さのLCC。かつての空路と陸路のイメージが入れ替わりつつある。

 LCCにも新幹線にも、どちらも一長一短があり、どちらを選択すべきかは、利用者の考え方次第で、一概には優劣をつけられないところはある。しかしながら、LCCの利用経験者の満足度は6割強と、評判は概ね好評であることから察するに、新幹線も安泰とはいえず、鉄道業界も近い将来、変わらざるを得ない状況になるのではないだろうか。

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