高機能繊維市場、ナノとバイオが市場を牽引
2012年12月3日 11:00
世界的な経済不況と震災の影響も加わり、2009年度から2011年度にかけては低迷が続いた高機能ファイバー市場。矢野経済研究所によると、2009年度から2011年度の高機能繊維市場は、2009年度が1220億5900万円、2010年度が前年同期比6.0%増の1293億7300万円、2011年度は同0.7%減の1285億900万円と推移し、横ばいから微減傾向にある。
この市場に、2011年度の市場規模が21億6500万円と推計されている新たな機能性ファイバー(ナノファイバー、バイオナノファイバー、バイオベースファイバー)市場が加わり、今後の新興国需要とともに、高機能ファイバー市場の拡大を牽引していくと予測されている。諸外国との厳しい価格競争などの影響もあり、繊維メーカー各社において、この機能性ファイバーへの注力が顕著になりつつある。
ナノファイバーとは、ナノ材料の一つで、直径が1nmから1000nmかつ長さが太さの100億倍以上ある繊維状の素材、バイオナノファイバーとは、セルロースなどの天然高分子をナノファイバー形状に加工した素材、バイオベースファイバーとは、植物等の再生可能なバイオマス資源を原料に用いて新しいプロセスにより生産されるポリマーを繊維状に加工した素材である。
ナノファイバーに注力している例としては、東レが10月9日に発表した、同社独自のテクノロジーブランド「NANOALLOY(ナノアロイ)」の立ち上げが挙げられるであろう。「ナノアロイ」とは、10億分の1を表す接頭語の「ナノ」と、本来は「合金」を意味する「アロイ」の造語。「ナノアロイ」技術とは、「ナノメートルオーダー(1mの10億分の1に相当する大きさ)」で複数のポリマー(樹脂成分などの高分子)をアロイ(混合)する、同社が基本特許ならびに主要な製造特許、用途特許を保有している革新的技術である。代表例として、強度と柔軟性を両立した炭素繊維複合材料や、急激に衝撃を加えたときにゴムのように変形して衝撃を吸収するナイロン樹脂などにこの技術が用いられている。
一方、バイオファイバーへの注力の例としては、帝人が挙げられる。11月の21日にも、同社が展開するバイオ由来ポリエステル繊維「PLANTPET」が、マイナーチェンジした「日産リーフ」のシートおよび内装トリムの表皮材として採用されたと発表されたばかりである。ここに用いられた「PLANTPET」とは、構成成分の30%強がバイオ由来のポリエステル繊維である。物性や品質は石油由来のものと全く変わらないものの、ポリエステル樹脂を構成する一部の成分をバイオマス(サトウキビ)の成分に置き換えたことから、化石資源の消費を抑え、温室効果ガスの削減にも貢献できるものとして同社は訴求を図っている。
前出、矢野経済研究所の調査では、2015年頃にはナノ/バイオベースファイバー市場が本格的に立ち上がると予測している。そして、2015年度の高機能ファイバー市場規模を、2011年度比20.5%増の1574億3000万円と予測。その後もナノ/バイオベースファイバーの事業拡大と新規参入が進行し、2011年度から2020年度までの年平均成長率は5.6%で推移、2020年度の同市場は2140億300万円へ成長するとみている。今後成長すると見られている数少ない分野の中の一つであるだけに、日本企業の活躍に期待の高まる市場と言えるであろう。