本に載らない現場のノウハウ-中小企業の人事制度の作り方:第8回 評価制度の検討(1)
2012年11月26日 16:38
今回からは、「評価制度」についてです。人事処遇制度の中でも一番興味関心が高い部分である評価制度。主に中小企業において私が経験した事柄を中心に、検討していく上での留意点などを説明していきたいと思います。
■なぜ評価制度が必要なのか
評価制度は、社員の間での評価や関心も高い、人事処遇制度の中でも中心となる、一番重要な部分といえます。中小企業の場合は、「とりあえず評価制度だけを作りたい」という要望もよく聞きます。
その一方で、「まだ社員全員が見渡せる規模なので、制度を作るほどのことはない」とおっしゃる経営者の方もいらっしゃいます。
評価制度の位置づけというのは、スポーツでいえば「勝ち負けはどうやって決まるのか」「どうやったら得点になるのか」といったような、一番基本的なルールになります。多くの勝利、たくさんの得点を挙げた人が、より重要な役割を担うようになったり、より多くの給与を得たりということになります。
確かに、少人数(10名くらいまで)の企業で、お互いの役割も仕事ぶりもよく見えている関係で、評価も役割も給料も、経営者が一元的に判断して決めているような企業であれば、評価制度を導入するほどではないかもしれません。
ただ、そんな企業であっても、経営者個人の感覚か、社員の総意かはともかく、何らかの暗黙のルールや価値観があって、それに基づいて社員個々が何らかの評価をされ、その結果として役割が与えられ、給与が決められているはずです。100%機械的に決まるような体系でない限り、何らかの評価が行われ、その結果で社員の間に差がついてきます。
一般的に、「等級格付け、役割」と「給与」はつながっていますから、なぜ今の差がついたのか、どういう根拠なのかは、社員からすれば絶対に知りたい事柄です。この差を説明しようとしたときには、必ず評価結果を示す必要が出てきます。その人の役割に対して何が(評価項目)、どうだったのか(評価基準と結果)、なぜこの給料になったのか(評価反映度合)ということは必ず付いてくるものです。
もしもその都度「勝ち負けのルール」「得点のルール」が変わってしまったのでは、社員の立場からすれば、いったい何をどう行動すればよいのかがわからなくなってしまいます。得点を重ねようと一生懸命がんばっていたのに、「その得点は今年は認めません」なんて言われたら、やる気が出るわけないですし、どうせまた変わるんだろうと、得点を稼ぐ努力もやめてしまうかもしれません。
評価制度には、会社としての行動基準が反映されます。「信用第一」も「結果がすべて」も「あいさつが大事」も、すべてその会社の価値基準であり、これに基づいた行動が評価につながります。会社として重視している事柄や、取り組む方向性を示すことにもなります。
やはり、評価制度というのは、会社と社員の関係の中での基本的なルールとして、企業規模に関わらず、制度として示しておくことが望ましいと思います。
■差をつけるだけが目的ではない
評価制度を語る上で、「同年齢、同じ社歴でも、年収で最大○百万円の差がつく」というような話をされることがあります。能力主義や実績主義であるということを強調したいのだと思います。
実際に制度を検討していく中でも、主に経営層から「もっと差がつくような制度にしたい」という要望が出て来ることがあります。もう少しよく聞くと「力のある者に厚く処遇したい」「結果を出している者に報いる制度にしたい」と言われることが多いです。
この気持ちは私も理解できますし、俗に言われる「悪平等」というものがあるのだとすれば、それは良い事ではありません。ただ、単に差がつくようになれば、それが解消されるわけではありません。
まず、どんな精緻な評価制度であっても、その差が本当に適切なのかは、結局は誰も説明できません。あくまで自社の価値観をもとに作った、今の仕組みによって評価するとそういう結果になったというだけです。100%の納得にはなかなかなりませんし、差がつく度合が大きくなればなるほど、よほど納得できる説明が得られない限り、社員の納得度は低くなっていきます。評価されない者がやる気を失っていくだけでなく、高評価を受けた者さえも、その評価が継続しないと不満を溜めていくというようなことがあります。
もう一点、人事制度の目的は「組織全体の業績を上げるために、人的資源を活性化すること」です。会社にはいろいろな人がいます。競争心がある人もない人も、熱い人も冷静な人も、出たがりも控えめも、派手も地味も千差万別です。そしてそのすべての人が会社としての戦力です。
ともすれば「差がつく」という形で競争心をあおることが、万人のやる気につながるように思いがちですが、競争が得意な人も苦手な人も、他人との差に興味が強い人も弱い人もいます。
もしも競争の苦手な人が多数の職場で、競い合うより落ち着いて協力し合う環境を作った方が組織として活性化するならば、あえて「差をつけない」という仕組みの方が望ましいという場合もあり得ます。
自社の価値観をしっかり見つめた上で、その価値観に基づいた仕組みに則って評価を行い、その結果として差がついたのならば良いと思いますが、初めから「差をつけること」が目的ではありません。
企業風土、仕事の進め方のスタイル、社員の性格傾向などの見極めも行った上で、本来の目的を念頭に置いて制度設計することをお勧めします。
■基本的な仕組みについて
評価制度を組み立てる上での一般的な形としては、まず評価項目を示し、その項目を評価基準に基づいて段階や点数で評価し、評価項目毎にウエイトをつけて、評価結果として導き出すのが大勢のやり方です。ここに目標管理制度や勤怠状況などを組み合わせたりして、最終的な評価結果とします。
あとは誰が誰を評価するのか、評価者による重み(優先順位)、その評価結果をどうやってチェック、承認していくかといった、評価制度を運用していく手順、手続きを決めることで、評価制度の形になっていきます。
一般的な検討事項は以下のようになります。
●何を・・・評価項目(項目数、内容など)
●どのくらい・・・評価基準、項目のウエイト、考課段階の数、点数化の方法など
●どんな方法で・・・自己評価、面談、相対評価か絶対評価かなど
●誰が・・・上司(課長、部長)、調整の有無ややり方など
それぞれの項目でどういう内容を選択するかによって、制度そのものの性格付けは大きく変わります。意図に合わせて適切なやり方を選択することが大切ですが、やってみなければわからないという面もあります。
基本的な立ち位置はしっかり決めつつも、ある程度の試行錯誤は覚悟して柔軟な対応を取っていくことも必要になってくるでしょう。
こんな方法を取ると、こんな効果は考えられるがこんな反応になることもあるというような、それぞれの項目を検討していく中での留意事項は、次回以降引き続きご説明していこうと思います。