本に載らない現場のノウハウ-中小企業の人事制度の作り方:第7回 等級制度の留意点(2)
2012年10月25日 12:34
前回に引き続き、等級制度を検討する上での留意点についてご説明します。
■等級のランク数について
等級制度を考えるにあたって、そのランク数をいくつにするのか、どのくらいのランク数が適切なのかということは、重要なポイントの一つです。
一般論でいえば、人数が多くて、組織自体の階層も多重化された大企業の方が、等級ランクの数は多くなり、人数が少なくて、組織階層もフラットなことが多い中小企業の方が、等級ランクの数は少なくなるでしょう。
等級のランク数を検討する際には、このような原則と合わせて、ランクの数が多いと年功的な運用になりやすく、ランク数が少ないと年功的な要素は弱まるという点にも、留意をしておいた方がよいと思います。
これは年功的な運用が一概に良いとか悪いとか言うことではなく、自社の仕事の状況や社員の状況に合わせて考えるべきということです。個人による能力差がつきやすい仕事内容であれば、年功的な運用はあまり好ましくないでしょうし、一歩一歩経験を積み上げていくことが必要な仕事内容であれば、年功的な考え方がフィットするでしょう。各社の事情に合わせて考えることが必要です。
多くの企業では、等級制度の検討にあたっては、現行の組織階層や役職、元の制度の構成などを考慮して決める、昇格モデルを設定して、それに合わせてランク数を決める、といった方法を取ることが多く、あとは、例えば経験が少ない若手では等級の階層を細かく設けて進歩の度合いを実感させ、上位等級になるほど等級階層を大括りにして年功要素を弱めた構成にするなど、各等級に該当する社員の経験、能力、役割によって、等級毎の性格付け、取扱いの違いを作っていきます。
あくまで参考ですが、最近の傾向としては「毎年○号上がる」というような細かいピッチでの構成は少なく、比較的大きな括りで等級設定をすることが多いです。
私がお手伝いするケースでは、100名以下の企業で5~6階層、1000人規模の大企業でも7~8階層で最大というようなところです。ごく一般的な例示ですが、「初級 → 中級 → リーダー → マネージャー(課長) → 上級管理職(部長)」というような構成であれば、5ランクということになります。このあたりを参考に、自社の状況に合わせて考えてみて下さい。
■制度の運用も考慮すること
等級制度をどんな構成にするかによって、実際に制度を運用する場面ではそれが大きな違いとなって表れてきます。
どういうことかというと、例えば年功的な運用を弱めた制度にした場合、ランクアップに際しては昇格要件を設定し、それを満たしているかを判定するために、何らかの評価や審査という手続きが必要になります。
審査の過程を通じて、在籍等級と担っている職務との適合性や適格性を測ったり、本人の意識づけを行うなど、動機づけする上では良い機会になりますが、審査期間を要しますし、審査に関わる人の時間や労力など、制度運用の負荷は高くなります。
逆に年功的な運用が強い制度であれば、毎年一定のランクアップを基本にするので、毎年少しずつ進歩している実感を持たせることができ、制度の運用負荷はそれほどではありませんが、昇格、昇級のイベントとしての要素は弱まり、向上心の低下やマンネリに陥る恐れがあります。機械的に昇格させる意識が強くなることで、在籍等級で本来求められる役割と、実際に担っている仕事が乖離していく恐れもあります。
これはある企業での事例ですが、できる限り年功的要素を排除した実力主義の制度にしたいということで、等級制度でも相応の審査基準や手続きを定めた仕組みとしましたが、実際に運用してみると想定以上に審査対象者が多く、制度の主旨通りの運用ができずに形骸化し、年功的な制度と変わらないか、ヘタをすればそれよりも悪いというような状況に陥ってしまいました。
これは人事制度構築全体でも言える事ですが、制度の理念や構成、仕組みとともに、やはり制度の運用負荷や、自社の対応力といった部分も考慮しておいた方が良いでしょう。
■維持する部分と変える部分のバランスを取ること
先に述べたように、等級制度については、基本的には今の組織階層や役職、もともとの制度があればその構成などを考慮して決めることが多いですが、維持する部分と変える部分のバランスはしっかり考えておく必要があります。現状維持の度合いが大きければ制度改訂の意味が少なくなり、変更度合いが大きいと、その後の運用が安定するまでに時間と労力がかかります。
一般的な中小企業の場合、人事管理やマネジメントのノウハウは大企業ほど高くない場合が多く、思い切った制度変更を行っても、その通りに運用できないケースを多く見受けます。人事制度改革に期待値が高い経営者の方ほど「意気込んだ大きな変革」を望むことが多いのですが、それが結果的に回り道となることも多々あります。
一方で、保守的な傾向が強い会社で、あえて変化の度合いが大きい制度にしたり、イケイケで他人を顧みることが少ない風土の会社に、あえて年功的な序列の意識を強めた制度を取り入れて、周りの人を意識するように仕向けたりと、多少の反発覚悟で刺激を与えて意識変革を図ろうとすることもあります。
どんな形でバランスを取るにしても、やはり自社の適応能力、社員の反応などをしっかり見極めることが必要になってきます。くれぐれも思い込みを持ち過ぎず、じっくりと慎重に見極めをして頂くことがよいと思います。
次回は、評価制度に関しての留意点や考え方などをお伝えしていこうと思います。