本に載らない現場のノウハウ-中小企業の人事制度の作り方:第3回 中小企業の人事制度の目的-成果主義をどう考えるか?(2)
2012年5月30日 12:21
今回も、よく人事制度の目的とされる「成果主義」についてご説明していこうと思います。
■「目標管理」の運用の難しさ
「成果主義」をうまく機能させるには、その前提となる組織状況、業務上の特性があり、自社の状況に合わせたバランスを考える必要があるということをご説明しました。それとともに、「成果主義」が機能しない一番の原因は、やはり評価の問題です。
「成果主義」を導入するにあたっては、「目標管理」を評価ツールとして使う企業が多かったわけですが、そもそも「目標管理」は、動機づけを行うためのマネジメントツールとして考えられたもので、各人が目標設定やその進捗と実行の管理を自主的に行うことで、主体性が発揮されて成果につながるという考えに基づくものです。
これを評価ツールとするには、各人の目標のレベルや難易度が統一される必要があり、そのような運用が大切であると強調されてきましたが、そんな理屈通りにはいきませんでした。仕事内容、部門、評価者、その他諸々が各人バラバラな環境の中で、目標のレベルや難易度を合わせ、達成度を客観的に評価するということは、あまりにも難しかったのです。例えてみれば、それぞれのチーム毎、選手毎にルールが違うサッカーで、公平にジャッジしろというようなものでしょうか。
異なる条件、基準のもとで評価をすれば、結果は当然不透明なものとなり、それが直接給与に反映されるとなれば、到底納得されるはずはありません。
また「目標管理」での目標は、あくまで重点目標ですから、当たり前に行わなければならない仕事や定型的な仕事は、目標に取り上げにくいものです。“取り上げた目標で評価される”ということは、裏を返せば“それ以外のことでは評価されない”ということで、結果として「目標と関係ないことはやらない」という者も出てきてしまいました。
最近は多くの企業で「目標管理」の運用見直しが行われていて、いろいろ試行錯誤がされています。運用スキル向上の研修を行う、記入書式を変える、評価との関連性を減らす、制度自体を止めるなど、やり方はいろいろです。私は「目標管理」の主旨は肯定しつつ、結果を直接的に評価反映することは、経験上からあまりお勧めしませんが、これも各社の事情(企業体力、事業内容、社風、人員構成、マネジメントスキル、経験値・・・.etc)によって違うでしょう。
いずれにしても、「目標管理」をうまく活用するのは、案外難しい事だけは確かです。
■評価にあたっての中小企業特有の事情
中小企業の場合は、さらに評価を行う上で特有の環境があります。
まずは、人間関係が近くて組織上の変化が少ないという点です。異動の頻度、仕事内容の変化、上司や部下などとの関係の変化、どれも大企業に比べれば少ないでしょう。
ということは、評価が固定化しやすく、良い評価の人はいつも良いまま、悪い評価を挽回するチャンスが少ないということになります。大企業であれば、心機一転の別環境を用意できるかもしれませんが、中小企業ではなかなかそうはいきません。同じような環境で同じような仕事を続けている中で、実際に評価結果というのはそんなに変わるものではないという面もあります。
もう一つは給与原資に関する点です。もともとそれほど大きくないパイの中での配分ですから、全体である程度の給与水準を維持しようとすれば、成果配分は限られてきますし、大きく差をつけようとすれば、どこかにしわ寄せが行きます。「成果主義」と言っても、それを処遇に反映する余力が少ないということです。結局は制度導入時に多少の変化があっても、以後はそれが固定化しているだけになりがちです。
また、せっかく手間をかけて評価したのに、賞与カットで結果反映する先が無くなったというような話も聞きます。中小企業の場合は、直近の業績が社員の処遇に直接的にはね返りますから、これもやむを得ない事でしょう。
中小企業は大企業に比べて、さらに「成果主義」をうまく機能させづらいといえるでしょう。
■中小企業での成果主義のポイント
「成果主義」のポイントとしてよく言われるのは、“納得性”、“透明性”、“公正性”です。大きくはこれらに含まれることですが、中小企業で成果主義を考えるにあたってのポイントを、もう少し具体的に挙げておきたいと思います。
・自社にとっての成果が何かをしっかり定義する
“結果がすべて”の考え方もあるでしょうが、会社にとっての成果は、単純な売上利益だけとはいえません。プロセス改善のような間接的で地味なこともあるし、人脈作りのような将来に向けた取り組みもあります。個人成果もチーム成果もあります。どんな事柄を「成果」として捉えるのかをしっかり定義し、みんなで共有することが大切です。
・自社の運用能力を考慮する
“自社に合った制度”ということに通じますが、実際にその制度を使えるだけの運用能力があるのかということを考慮する必要があります。いくら「公正な評価を!」と思ってもしょせんは人間がやることで、制度で決めればできるというほど簡単ではありません。給与などは経営上の制約もあります。
社員の能力向上の見地で、少しの背伸びはあったとしても、それ以上でなければ使いこなせないような制度は、会社にとっても社員にとっても何の得にもなりません。
・他社事例をうわべだけでマネしない
いろいろな会社の人事制度の事例が、多くの場合は成功事例として、ネットや書籍で紹介されています。こういったものを参考にすることは多いと思いますが、中小企業の場合は会社によって環境の違いが大きく、成功事例だからといってそのままマネしたり、トレンドのキーワードや一般論を鵜呑みにして取り入れても機能しないことが多々あります。参考事例の背景をよく考え、自分たちに合わせてアレンジすることを前提にした方が良いでしょう。
■何のための成果主義なのか-本当の意味での人事制度の目的
「成果主義」というのは「成果を出した人に報いる制度」ということですが、いったい何のためでしょうか? それは努力をして結果を出したものが正当な見返りを得ることで、その人がさらにやる気を出して成果、業績に結びつけるということでしょう。
ここで質問ですが、あなたは本当にこれでやる気が出て、成果につながると思いますか? 「もちろん!」「その通り!」という人もいるでしょうが、多くの人は「見返りがあるのは良いが、それがすべてではない」という感じではないでしょうか。つまり人を動機づけする方法として、成果主義がすべてではないということです。
実は本当に意味での人事制度の目的は、この「それがすべてではない」というところにあります。いろいろな価値観を持った人たち(会社の人的資源)の理性、感情を刺激し、これをいかに業績にむすびつけるか、いかにやる気が出る環境を作るかということです。
「成果主義」は、あくまでそのための手段の一つにすぎません。このことをしっかり理解した上で、制度作りをしていくことが大切であろうと思います。
次回も引き続き、人事制度を作る目的について、お伝えしようと思います。