ここがポイント-会社を伸ばす中小企業の採用戦略:第13回:内定者フォローの取り組みについて(2)
2012年1月27日 15:40
前回から引き続いて、内定者フォローの実施にあたっての注意点や、実際の取り組み例について、お伝えしようと思います。
■何をどこまでやる?-まずは目標設定が先決
かつては、内定者“フォロー”ではなく、内定者“拘束”と称して、自社以外の就職活動ができないように、会社のお抱えで豪華な旅行に連れ出したり、接待まがいのことを繰り返して、文字通り拘束することだけが目的のような時代がありました。
入社前の学生が、会社からそんな対応をされたとしたら、普通は舞い上がってしまうでしょうし、「会社ってこんなもんだ・・・」と無意識のうちに刷り込まれ、甘く見てしまうでしょう。
しかし一旦入社すれば、仕事の厳しさには確実に遭遇しますから、入社前後のギャップの大きさに驚き、そのあまりの違いに適応できなかった人もたくさんいたのではないでしょうか。
これは、会社側の一方的な都合で、内定者への対応はしていたけれど、内定者にとっての入社前の準備ということには、ほとんど役に立っていなかったということです。
内定者フォローというのは、要は入社前にどんな準備をさせるか、してもらうかということです。役に立つ準備でなければ無意味ですし、その考え方や内容は、業種や職種や企業風土など、会社によって異なります。
ですから内定者フォローを行うにあたっては、自社として何を目標にして、それをどこまでやるかをいう目標設定が重要になります。心の準備なのか?スキル習得なのか?何をどの程度まで目指すのか? それさえ明らかにすれば、実施する内容というのはおのずと決まってくるだろうと思います。
何をやろうかと実施企画ばかり考える前に、まず目標をはっきりさせ、それを会社全体で共有することが大切です。
■高望み、やりすぎは禁物
最近ときどき聞くのが、「入社してからすぐに使えるように、事前に教育しておいてくれ」などという現場要望が出て来るという話です。これは入社後の新人教育に対してもあることですが、教育担当に対して「現場に来たらすぐに使えるように教育しておけ」といい、何かあると「新人研修で何を教えていたんだ!」と非難したりします。これはまさに“多くを望み過ぎている”典型です。
こんなことを言う人に対して逆に言いたいのは、「皆さんのやっている仕事は、素人が少し研修すれば一人前になれるほど簡単な内容ですか?」ということです。
内定者フォローは、意気込み過ぎるとあれもこれもとやる内容が増え、多くの時間を要する膨大な内容になったりします。会社にとっても内定者にとっても過大な負担となり、その割に効果が得られないということになりかねません。
内定者の本業はあくまで学生ですから、学生生活を過度に圧迫するものであってはなりません。会社としても、限られた時間であることを踏まえ、この中で最良の効果を出すことを考えなければなりません。「目標設定に合わせてポイントを絞る」ということが重要です。何もしないのは好ましくないですが、やり過ぎは逆効果になることが多いです。
最近は、特に業務スキルの習得を急ぐ(急ぎ過ぎる?)傾向がありますが、それを入社前からやる必要があるのか、本当に習得可能なのかを良く考えて頂きたいと思います。
■どんな入社準備をさせるか
内定者フォローの目標設定さえしっかりできれば、実施する内容として考えられるものは、概ね決まってきます。
バリエーションとしては、以下のようなものになるでしょう。
◆入社前研修
・内容 : 業務スキル、業界や会社の事業に関する基礎知識、社会人マナーや心構え など
・方法 : 集合形式、通信教育、Eラーニング など
・実施頻度 : 月一回程度、入社日前に集中 など
◆人間関係づくり
・内容 : 内定者同士、役員など上層部、既存社員 その他関係者との交流 など
・方法 : 懇親会、レクレーション、社内行事へのゲスト参加 メール交換や電話、SNSの活用、その他イベント企画 など
・実施頻度 : 月一回程度、その他適宜実施 など
これらを、目的に応じた組み合わせで実施していくということになります。
これらは一つが一目的ということではなく、例えば集合研修を実施すれば、それ自体が関係作りの場にもなります。違う場が必要ならば、懇親会などをセットしても良いでしょうし、その優先度が低いならば無理に実施する必要はありません。
中小企業の場合は、特別に手間をかけることは難しいので、会社の定例行事や既存イベントにうまく組み込むと、比較的実施しやすいと思います。月次の定例会や研修、その他会社行事に内定者も参加してもらい、そこにちょっとした講話や研修をプラスすれば、学ぶこともできて親交も深められたと、内定者の満足度も高まります。
また、最近はSNSを活用する会社も多くなっています。メールのように一対一ではなく、多くの関係者を取り込んだコミュニティとして、内定者が会社と常に繋がっている感覚を持てるという良さがありますが、SNSを使うことの得手不得手や慣れの問題、ITリテラシーの個人差が出てしまうといったデメリットもあります。せっかく立ち上げたのに、ごく一部の人と人事担当者以外は義務的に参加しているだけ、などということになりかねません。SNSを効果的に運用するには、多くの人が自主的に参加したくなるような情報提供、場の雰囲気づくりなどの工夫が必要だろうと思います。
また、やりとりが密になると、運用が意外に大変という面もあります。SNSを単にコミュニケーションの手間が省ける便利ツールと思っていると、たぶん痛い目を見ます。そんなことも頭に入れた上で、取り組んでみると良いと思います。
何も大々的に研修をしたりイベントを企画したりしなくても、他の方法で目的が達せられるならば、それで十分でしょう。
■会社側の基本姿勢として
ずいぶん前の話になりますが、ある企業の人事担当者が「内定者研修で新入社員の出来がわかるので、レベルに達しない者には別の道を考えるように仕向けなければならない」と言っているのを聞いたことがあります。研修と称した事前振るい落としと考えていたようですが、適性などは採用時に見極めるべきことですし、そんな姿勢は会社の評判を落とすだけです。(事実その企業はその後、俗に言われる“ブラック企業”の常連になってしまいました。)
内定者フォローは新入社員にスムーズに適応してもらうための事前準備です。スムーズな適応は会社にも利益をもたらします。
内定者フォローの目的を見誤らず、そのプロセスをうまく利用して、お互い良い状態で入社日を迎えらえれば良いと思います。
次回は、いよいよ本テーマでは最終回。中小企業の採用活動について、まとめのお話をさせて頂きたいと思います。