一刻も早く、新たな船を被災地の漁業者へ

2011年12月19日 11:00

 東日本大震災では2万隻ともいわれる沿岸部の和船の多くが被災し、そのうち残存・修理可能な船は1,000隻あまりとみられている。一刻も早く漁業者のもとへ新たな船を届けることが必要とされている中、水産庁による共同利用漁船建造補助事業がスタートしている。

 そのような中、ヤマハ発動機もこの事業の枠組みの中で 2013年3月までに4,000隻の和船の製造を担っている。現在、宮城県村田町にある国際公認サーキットを付帯する同社の関連施設スポーツランドSUGOの敷地内の屋内テニスコート場には、次々と同社の工場から出荷された船が運び込まれている。

 同施設は10月より稼動が始まった、被災地向け小型漁船の艤装(漁業に必要な装備・漁具の取り付け)センター。ここで加工される船は、同社製16から35ft(フィート)の「和船」と呼ばれる船外機を取り付けるタイプの小型漁船で、東北地方では主にアワビやウニなどの磯物の漁や、ワカメやカキなどの養殖に使用されている。同社の昨年の漁船・和船の製造数が約250隻というから、今回の4,000隻はまさに大増産。船を建造する際のFRPの型や冶具の追加をはじめとする設備投資、同社OBや被災地の造船関係者などから募った従業員の確保など、増産に向けたさまざまな対応が求められており、この艤装センターもそうした工夫の一つだという。同施設の屋内テニスコートには40隻の船を同時に艤装できる充分な作業スペースがあるほか、屋外のコートにも30隻の保管が可能。

 「社内で増産計画を立てた際に、『お客さまに一日でも早く船をお届けするにはどうしたら良いか』が問題になりました。通常、漁船・和船は、工場から出荷されたままの状態で使われることはなく、漁師さんの要望を聞きながら販売店で最終的な艤装作業が行われます。しかし、地元の販売店だけでは4,000隻に対応しきれなかった」と同社ボート事業部の末安郁郎氏。1か所で効率よく対応できる艤装センターの設置が不可欠と考えていた時、震災後の支援活動の基地となっていたスポーツランドSUGOの上川社長から「うちの屋内テニスコートを使用したらどうか」と提案され、実現に至ったという。

 現在、この艤装センターで作業を行う従業員は約30名。その中には地元出身者は15名ほどいる。そのうちの一人、大沼浩氏は「震災後、漁船が足りないという報道を見て心を痛めていました。もともと趣味のダイビングを通じて船への関心が高かったため、艤装作業については未経験でしたが、少しでも貢献できればと応募しました。艤装を終えた船がトラックで運ばれていく時には、少し誇らしい気持ちになります」と話す。

 東北の漁業復興に向けた新しい船の建造は短期間で終わるものではなく、まだまだ始まったばかりだ。時折サーキットの走行音も聞こえてくるこのテニスコートから、今日も艤装を終えた和船が復興への願いを込めて運ばれていく。

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