現代を生き抜くためのノウハウ満載!中小企業IT活用実践手法:第10回 経産省「IT経営力大賞」の事例紹介1(時計修理、販売業)
2011年9月6日 23:55
■さまざまな経営課題が山積
経済産業省IT経営力大賞2009年認定、2010年優秀賞を受賞し、著名となった共栄産業株式会社様(以下:共栄産業)は、筆者がご支援を開始する前に様々な経営課題が山積していました。
同社は1968年に創業し、時計の修理事業を中心に、高級輸入時計のディストリビューター、そして店舗展開の3つの事業を柱にビジネス領域を広げてきた企業です。
IT経営に取り組んだきっかけは、2005年に経済産業省関東経済産業局の呼びかけでの中小企業創業・経営革新等支援補助金(IT活用型経営革新モデル事業)へ応募したことが始まりでした。
当時、中小企業診断士でトヨタ式の見える化を専門とする経営コンサルタントを招き、時計修理部門の改善(カイゼン)活動を行っていた真只中に、IT化も同時並行で対応する必要を考えていた小林正博社長とCIO(情報最高責任者)である秋田取締役がIT活用型経営革新モデル事業に応募し、補助金を得ることができたことが最大のIT経営化のチャンスでした。
■時計修理部門の経営課題から改善活動がスタート
当時の共栄産業の最大の経営課題は修理部門では優秀な技術を揃えていても(時計修理技術者40人体制)、1日にこなせる修理には限りがあり、平均で3000程度であったことでした。
一方、時計修理業界では日本国内で最大の技術者数を抱え知名度が高かったため、徐々に注文が増え、3000個の範囲を超えた場合は断るなど機会損失が発生していました。
そこで取り組んだのが、まずは「カンバン方式」を採用し、修理現場での業務フローが軌道に乗った段階でIT化を行うといった改善活動を行いました。
同時に業務をより見える化するためにIT活用型経営革新モデル事業を活用し、修理や進捗、修理在庫などの状況が把握できる管理システムを導入しました。
その後2007年から稼働を開始しました。現在は改善の成果も出て1月得平均で6000本以上の修理が可能となり、生産効率は約200%向上。同社の50%以上の売上を占めることとなりました。
今度は一定の成果に満足せずに後に「守り」の業務カイゼンを行ったことで修理部門単体では一段と業績を伸ばす体制が整ったことになりますが、一方では経済環境の悪化などにより高級時計の販売が不振となっていました。
その時期に東京商工会議所のIT経営応援隊事業の講演に筆者(阿部満)が偶然にも同社と共演することとなりました。
そこで、同社のIT経営の取り組みに関して、今後、より成長するためには、まずは、中長期IT経営戦略の策定を行うようにアドバイスを行いました。
■単なるIT導入を目的にせずに経営課題を解決するための経営戦略を策定
筆者(阿部満)が同社の小林社長とCIOの秋田取締役、そして幹部を迎え、中勤務時間終了の夕刻から約1年間を掛けてじっくりと腰を据え、経営理念として「チャレンジ精神で成長し共に栄える共存共栄企業」と定め、売上低迷に対しての現状打破に向けて戦略を練り上げていきました。
特に重視する経営課題について改めて洗い出すために、自社の強みと弱みの内部環境要因、機会と脅威の外部環境要因を把握する「SWOT分析」を行った結果、導き出した答えは、修理部門の最高品質の技術や生産性を中核に、高級輸入時計のディストリビューター、そして店舗展開に活かす事業展開でした。
その後、経営戦略に基づいたIT活用が効果的に働き、守りと攻めのIT経営を通して実績を徐々に伸ばし、2009年度にIT経営力大賞認定企業に選ばれました。そして翌年2010年には優秀賞(ITコーディネータ協会会長賞)を受賞するに至りました。
共栄産業のように今後のIT経営を実践するためには、顧客の情報を如何に共有化し、積極的に情報配信を行っていくかに掛ってきています。
企業を存続・成長させるには、守りだけでもダメ、攻めだけでもダメ。共栄産業のように守りと攻めの両立の戦略とIT化によるバランスが重要です。
そこに気づかれた共栄産業は今後も、日本の職人気質の時計修理業務を中核に発展していくことでしょう。
では、次回は『経済産業省IT経営力大賞事例企業紹介2(食品製造業)』 についてお話していきましょう。是非、お楽しみに!!